277話 6月20日#10
まだ腐っていない人間の腿は、一太刀で切り落とすのはなかなか難しい。
なので、俺は別の手を試してみることにした。
「……はっ!」
ゾンビの噛みつきをかわし、素早く後ろへ周りこみ、踵を狙って薙ぎ払った。
アキレス腱が切れたゾンビは上手く動けなくなり、後ろ向きに倒れた。
「でもこれじゃ、きりがねえ……」
いろいろな情報から、これはおそらくうお座の星霊使いの魔法と思われる。そいつを叩けば、この本物のゾンビどもを止めることができる。
――しかし、本人がどこにいるのかわからない。そもそも暗いし、霧のせいで視界がかすんでよく見えない。
「一体、どうすれば……!?」
その時、テンがまたやって来た。自分の近くにやって来たゾンビに銃を撃っている。
「……お前、持ち場を離れて大丈夫なのか?」
「君に、1つだけ教えたいことがあって……!」
テンはそう言って、足元に何かを置いた――あのお香だ。
俺たちの周囲の霧が薄くなり、ゾンビたちの動きが止まる。
「空を見て!」
俺は、言われたとおりに空を見た。
――そして、見つけた。
「あれ……飛空艇!?」
空に浮かぶ黒い影……星空を黒く隠しているそれは、飛空艇だった。しかも、一番大型のタイプだ。
「手榴弾を追加で3つあげる……あとは、君に任せるよ!」
テンはそう言って、再び霧の中へと消えていった。
「飛空艇……」
――もしかして、ピスケスはあの中にいるのか……?
「どうにかしてあの中に入れば……!」
それから、俺は南へ向かって走り出した。途中現れたゾンビは、剣か小道具でやっつけた。
しばらく走り続け、やがて聞こえてきたのは、大きな爆発音。
――そして、霧が晴れてきた。
理由は簡単だ。周囲に、燃え盛るいろんなものが転がっていた。
その中心にいる目的の人物を見つけると、俺は大声でその人を呼んだ。
「れええぇぇーーい!!」
その声に気づいたレイは、首を傾げてこちらに飛んできた。
「何ー?」
「俺を……」俺は、空を指さした。「あの飛空艇まで飛ばしてくれ……!」
レイは目を瞬いた後、元気よく「おう!」と答えた。
「任せろ!」
次の瞬間、俺の体が宙に浮き上がった。そのまま俺は直線状に飛空艇へ吹っ飛び、その甲板に着地した。
甲板の上に、何人か人がいた。その中央に、椅子に座ってくつろいでいる女がいる。
ランプに照らされた髪はつややかで、黒と言うよりは少し青っぽい。服装も派手で露出度が高く、スカーレットが女性たちに無理やり着せていた服を彷彿とさせる。
――でも、その人たちのうちの1人には見えなかった。とても妖艶で、きれいで――残酷な雰囲気があった。
女は数人の女性を従えており、その従者たちは槍を持ってこちらを睨んでいた。女は、テーブルの上のお香から出る甘ったるい香りを嗅ぎながら、余裕のある目で俺を見つめている。
しばらく睨んでいると、女は色っぽく笑い声を上げた。
「こんなに暗いのに、よくこの船を見つけられたわねえ」
女は立ち上がって、ゆっくりとこちらに近づいてきた――身長が俺とほぼ同じくらいあって、ヒールの高い靴を履いている分、俺より大きかった。
「……なるほど。あなたがカイトなのね」名前を呼ばれた瞬間、俺は背筋がゾクッとした。「あたくし、あなたに話があるの」
「それを聞くつもりはないが、」俺は口を開いた。「あんたが『ピスケス』か?」
「……大正解。よくわかったわね」女はにたーっと妙な笑みを浮かべた。「『ピース教団』の主……だったけど、それはもう昔の話ね。どうせあのくだらない幹部たちのやりたい放題になってただけだし、あたくしには、あんな教団の代わりになる戦力があるから」
「……『ゾンビ』か」
「正解。あなた、思った以上に頭が回るわね」
「……そうか」
俺はそれ以上話すつもりはなかった。甲板から船室へ入ろうと、どこに扉があるか目で探した。
――その時、ピスケスの後ろに控えていた女のうちの1人が、俺に槍を投げつけてきた。俺は屈んでかわし、ピスケスが俺の前に立ちはだかるのを見た。
「あなたが何しに来たのかは知っているわ」ピスケスはその場にゆっくりとしゃがんだ。「この船を落とそうとしてるでしょ?あたくしと、あのゾンビたちを止めるために」
「……それで?」
「そんなこと……あたくしが許すわけがないでしょう?」
俺は危険を感じ、その場から飛び退いた。ピスケスの後ろから槍が飛んできて、甲板に刺さった。ピスケスは無傷――体が霧が何かでできているようで、槍がピスケスの体をすり抜けていった。
「見てのとおり、あたくしに剣も矢も効かないわ――さあ、どうする?」




