271話 6月20日#04〜塔の中で③〜
「わたくし、カヤは『かに座の星霊使い』です」
カヤさんはそう言いながら、奥の部屋へあたしとレイを通した。
その部屋は、人が住んでいる感じがする部屋だった。クローゼットにテーブルと椅子、あとベッドもあった。
「少し散らかっていてすみません」カヤさんはそう言って、2つの椅子を引いた。「こちらに座ってください。飲み物をお持ちします」
「あー。気を遣う必要はない」と、レイは言った。「どうせ私たちには仕事があるから、あまり時間を長くかけるつもりはないだろう?」
「ええ……では、そうさせていただきます」
カヤさんは、向かいの席に座った。
「実はわたくし、あなた方がここへ来ることを知っていて……」
あたしは目をぱちぱち瞬いた。
「簡単に申しますと、わたくしは未来がわかるんです」
「……ほお」レイは、テーブルに肘をついた。いつもの感じからすると、今回は興味を持っているみたい。
カヤさんは、どこから話したらいいか迷っているみたいだった。
「あなた方がここへ来ることもわかっていました。時間も、正確に……」
「ここへ来る時、私たちは、なぜか急に現れた光の道を歩いて来たが……?」
「そうです。それがわたくしの力……光で水を固める能力も、わたくしのものです」
「そういえば、この部屋は……?」
「わたくしの住んでいる部屋です」と、カヤさんは言った。「代々『アクアガーディアン』は、ここに一生住みます」
「……外に出ないの……?」
「ええ。よほどのことがない限り、ここからは出られません……ですが、」
あたしとレイは顔を上げた。
「代わりに、未来について深く知り、考える時間があります。あなた方がどんな危険を経験し、どうやって解決するのかも」
「……『監視』……?」
「まあ、そうとも言えるかもしれません」カヤさんは申し訳なさそうに言った。「でも、ご心配なさらないで。情報を共有しているのは『おとめ座の星霊使い』さんです。彼女からみなさんの簡単な紹介を受けましたし、こちらからも情報を提供しています」
――人の過去や考えが読み取れるウィルゴと、未来が見えるカンケル……最強の組み合わせ……
そこで、カヤさんはそっと目を伏せた。
「あなた方に言いたいことは、とてもつらいことです……今夜、『てんびん座の星霊使い』と『うお座の星霊使い』が、ここへやって来るのですが……」
――え?
「その時、あなた方はとても困難な状況に置かれます。街の住人たちも巻き込まれて死者が出ますし、わたくしも……重大な決断をしなければならなくなります」
「……それは、決定事項?」
「はい。あなた方に選択権はありますが、いずれをとっても、かなりの苦痛が伴うことを覚悟していただきたいのです」
「……ね、ねえ……」あたしは恐る恐る訊いた。「街の人のことなら、今から避難すれば……?」
「あの……わたくしの『未来予知』は、わたくし『アクアガーディアン』だけが知っていることなんです。兄のオギも知りません。ですので……わたくしが『予知』したことは、基本的に誰にも言うことができません」
「それじゃあ、『予知』する意味がないんじゃないか?」
「……レイさんのおっしゃるとおりです」カヤさんは、残念そうに言った。「でも、あなた方星霊使いには、伝えることを許されています」
それからカヤさんは、テーブルの上に伏せて置いてあった紙を、あたしたちに見せた。
「……あなた方に、ここに書いてあることを実行していただきたいのです」
紙には、何やらリストが書かれている。
「これからわたくしが詳しく説明しますので、お仲間に伝えてください。これをすれば『月の神が元の姿を戻す』未来へたどり着く可能性があります」
「『たどり着く可能性』……?」
「ええ。100パーセントではありません」
カヤさんは、真剣な表情で、あたしたちを見つめた。
「これを全て実行しても、最後に大きな選択肢が残ってしまいます。そこで間違うと……」
――あなた方は、全員死んでしまいます。
代々の『アクアガーディアン』は、かに座の星霊使いが務めています。
オギは、カヤが星霊使いであることは知っていますが、未来予知ができることは知りません。




