263話 6月18日#10
「コイツ、どうしようか?」
俺が口を開くと、他のみんなも「うーん」と考え込んだ。
「……警察に引き渡す?」
「い……イヤだっ!」ファールは首を振った。「『豚箱』はイヤでござる!」
「お前、常識ないくせに、妙な単語知ってるな……」
「闇市で覚えたでござる!」
――自慢するな。
「……とにかく!あんたは許さない!」
珍しくリアがマジで怒ってる。
「あたしと同じ魔法を、こんなくだらないことに使うなんて……!!」
「『くだらな』くって、悪かったでござる!」
「とにかく!」リアは弓矢を取り出した。「あんたを一発殴らないと、あたしの気が済まない!」
リアは弓に矢をつがえ、ファールに狙いを定めた。
「『サンダーショット:ハスタ』!」
「『忍法:凧上げの術』!」
――ファールが、魔法らしい魔法を初めて使った。
ファールの足元から空気が一気に噴き上がり、ファールは上空高くへ打ち上げられた。
「『忍法:分身の術』!」
――と、思ったら、上空にたくさんのファールの『分身』が現れた。『分身』は広がって、全員で大きな1つの影になっ……て、あれ?
「あいつ……包帯までコピーしてる……」
「「「しまった!動けないでござる!!!」」」
分身たちは、包帯で身動きが取れないまま次々と地面に落下し、その場でじたばたもがいた。
そこへ、リアが容赦のない追い打ちをかけた。
「『サンダーショット:ミレ』!」
『分身』たちに次々と雷が落下し、「ドロン!」という声を残してその場から消えていく。
「う、『忍法:縄抜けの術』!」
薄い緑色の細い線のようなものが、ファールと生き残った『分身』たちを取り巻いた。
包帯は線に刻まれ、はらはらと地面に落ちた。ファールは全員手足が自由になり、走って逃げようとした。
「逃さないわ!」リアは次の魔法の名前を叫んだ。「『ロックオンショット:オムネス』!」
すると、矢は一番近くの『ファール』に当たり、「ぎゃふっ!」と言って、そいつは地面に倒れた。
しかし、矢はまだ飛んでいた。最初の『ファール』から抜け出て、全く違う方向へ飛んでいき、その先にいた2番目の『ファール』を「ぎゃふっ!」と言わせた。
そうして矢は、1人の『ファール』を突き抜けると、他の『ファール』に向かって飛び、その『ファール』を地面に沈め、また別の『ファール』へと飛んで行った。軌道が明らかにジグザグしていたが、一番遠くを走っていた『ファール』にも命中し、「ぎゃふっ!」と言わせた。
「矢文……」俺は、ユピテルでリアに悪質な『悪戯』をされた時のことを思い出した。
「『サンダーショット:ミレ』!!」
リアが分身たちを雷で弾き飛ばし、再びファールは1人だけとなった。リアの度重なる雷攻撃で、服が黒焦げになっていた。
「……で?」リアはぎっとファールを睨んだ。「まだやるつもり?」
明らかに劣勢に立たされているが、ファールはなぜか笑っていた。
「言っておくが、拙者をいくら痛めつけても、おぬしらが『石』を手に入れることはできぬ。なぜなら『石』は……!」
「君の『石』って、これかな〜?」
テンが明るい声でそう言いながら、こちらに近づいてきた。
ファールが、愕然とした顔をしている。
「何かね、あの一番頑丈そうな建物の中を物色したら、こんなのが見つかってね……」
明るい若草色の石……あれはきっと『ふたご座の石』だ。
テンはその『石』を、レイに手渡した。
「……『石』も手に入ったことだし、あとはコイツを『豚箱』に送るだけだな」
「『豚箱』はイヤでござる〜〜!!」
ファールは往生際が悪く、また逃げ出そうとした。
しかし、
「『いて座の歓喜』!」
リアの『奥義』が炸裂した。
ファールを雷の『鉄格子』が取り囲んで、ファールの進路を絶った。
そしてファールの頭上を、黒い雨雲が覆った。
雨雲から雨が滝のように降り、雷がいくつも落ちてくる――1人分の強烈な嵐が、ファールを襲った。
「ぎゃあああああああ!!!」
リアの渾身の大魔法を受けて、今度こそファールはその場で倒れ、動かなくなった。




