254話 6月18日#01
その翌朝のことだった。
――わんわんわんわん!!!
犬の大きな吠え声で、俺たちは目が覚めた。
「何だ!?」
「この、ドロボー!!」なんか宿の主人の怒鳴り声も聞こえてくる。
――俺やテンは客だし、わざわざ見に行く必要はないのだが、あまりに気になって部屋の外へ出た。
すると、廊下にソラがいた。
「何かが、下の階で起こってる……!?」
「ちなみに、レイは……?」
「……まだ寝てる……」
――やっぱり。
とりあえず、俺たちは下の階にある、宿の玄関へと下りていった。
するとそこには、実に奇妙な光景が広がっていた。
宿の玄関で、主人が箒を振り回している。
床に、何やら黒い服を着た人がうずくまっている。
そしてその人の尻に、犬のローズが噛みついている。
「す!すまないでござる!もうしないから、見逃してくださいでござる!」
――あれ?この口調……
「……まさか、『忍者』!?」
「「「え?」」」
宿の主人とテンと黒服の人が、同時に俺の方を向いた。
――その人は黒尽くめの服を着て、わら草履を履いている。そして『ござる』。
まちがいなく、王都で見た、あの『忍者』だ。
そして、抱えている袋の中に、なぜか大量のスリッパが入っていた。
「……今のうちでござる!」
俺たちが唖然としている中、『忍者』は宿から飛び出そうとした。
「……そうはさせない……!」
ソラはそう言うと、『忍者』の背中に飛び蹴りを食らわせた。同時にローズが、『忍者』の脚に噛みつき、ニンジャは地面に倒れた。
「ぎゃふん!」
袋が破け、中に入っていたスリッパが玄関にばら撒かれた。
「ちょっとあんた、話を聞かせてもらおうじゃないの!」
「とほほ……」
宿の主人に、奥の部屋へと引っ張られていく『忍者』。
ところがその時、
「なーんて、ウソでござるー!!」
ぼふんという音とともに煙があたりに立ち込め、俺たちは視界を奪われた。
「けほっ!けほっ!」
「では、さらばでご……ゲホッゲホッ!!」
そして気がつくと、『忍者』は姿をくらましていた。
その後、俺は宿の主人と、テン、ソラ、レイ|(ようやく起きてきた)、リア|(レイを起こしていた)、ピエール33世(おまけ)に、王都での『忍者騒動』について話して聞かせた。
「何、その人……?」
「随分な変人がいたもんだねぇ……」
「そういえば、私にバナナくれた人いたなー」
「……別にあげたわけじゃないんだが」
俺は、ため息をついた。
「とりあえず、不審人物であることは確かだから、警戒したほうがいい」
「ふーん」宿の主人は、首を傾げた。「でも不思議なのは、さっきどうやって逃げたのかしら?」
「どういうことですか?」
「だって、私たちはともかく、ローズちゃんも『忍者』を見失ったのよ?変だと思わない?」
――確かに。
あの後ローズは、『忍者』を追いかける様子はなく、不思議そうに床をくんくん嗅ぎ回っているだけだった。
「もしかして、本当にあの場から消えた?」
「……ワープ……?」
「……いや。SFじゃあるまいし」
少なくとも俺は、ある場所から離れた場所まで『転移』する魔法なんて、聞いたことがない。
テンやソラの反応を見る限り、その知識は間違っていないと思う。
「……ま。おかげで何も盗られずに済んでよかったわ。ありがとう!」
宿の主人はそう言って、隣の部屋へ行って掃除を再開した。




