252話 6月17日#03
「『ウールプロテクション』!」
レイが羊毛を、俺たちの周りに大量に出現させた。ドラゴンの脚に毛が引っかかり、ドラゴンの動きが少しだけ鈍った。
その隙に、ソラとテンが動き出した。
「『グラビティシャックルス』!」
「『スピンドルスパイダーネット』!」
魔法と蜘蛛の巣がドラゴンに命中し、ドラゴンの動きが止まった。
「今だ!」
「『フラッシュバック』!」
「『サンダーショット:フルメン』!」
「『パルサースタッブ』!」
3人の星霊使いたちの魔法が、ドラゴンに集中した。もうもうと砂埃が立った。
10秒後、俺たちの周りの羊毛が燃え尽き、同時にドラゴンの周りの砂埃が消えた。
――ドラゴンは、まだ立っていた。
「うそ……」俺の肩の上のリアが、カタカタ震えていた。「効いてない……?」
――ところが次の瞬間、ドラゴンの上に何かが落ちてきた。
「シャアアア!!」
――それは、獣の足だった。
上を見上げると、そこにはライオンのようなモンスターがいた。とてつもなく大きく、俺たち人間を一呑みにすることができそうな大きな口と、『キングヴェノムドラゴン』を踏みつけられるほどの大きさの前足、燃えるような赤いたてがみが印象的だった。
背中には2対の赤い翼が生えていたが、モンスターの体の後ろ半分は、たてがみに隠れてよくわからない。鋭い目つきで、俺たちを睨んでいる。
巨大なモンスターの前足でつぶされた『キングヴェノムドラゴン』は何とか抜け出して、後ろを振り返ってから、どこかへ逃げ出した。
「ええええ……」俺の耳元で、リアが囁いた。「あ、あんなのと戦うの……?」
しばらく、誰も動かなかった。俺たちとモンスターは睨み合ったまま、その場でじっとしていた。
やがて、ソラがぽつりとつぶやいた。
「砂漠の魔神……『パズズ』……!」
どうやら、モンスターのことを何か知っているらしい。
少しの合間があり、突然驚くべきことが起こった。
「……ま、ワイを見て、驚くのも無理はないわな」
「「「「「え……?」」」」」
――モンスターがしゃべった。
「そこの小娘の言うとおり、ワイは『パズズ』と呼ばれとる。欲を言うと、もちっとカッコええ名前で呼んでほしいんやけどな」
――しかも、口調が軽いというか、何というか……
『パズズ』はその場でゴロンと横になると、前足をぺろぺろ舐め始めた。
「あー。『パズズ』……さん?」レイは、俺たちの中で一番動じてなかった。「助かったぞ、ありがとう」
「お。礼儀正しくてええなあ」『パズズ』はふんと鼻を鳴らした。「全員がこないな人間だったらええんやけどな」
――とりあえず、俺たちと戦うつもりはないらしい。俺はみんなに武器を仕舞うよう合図してから、『パズズ』の方に近寄った。
「あの、本当にありがとうございます。おかげでみんな助かりました」
「いいんや。気にせんといて」
「あ、あの……俺たち急いでるんで、この場で失礼します」
「そうか、そうか。ほな、またな」
俺たちは『バグボート』のそばへと戻ると、もう一度『パズズ』を振り返った。
――『パズズ』はあくびをしていた。
「えーっと……」テンは、どういう表情をしていいかわからず、戸惑っていた。
「あ、ああいうモンスターもいるのか……」
『えっと、そうですね』ピエール33世|(ロボットの姿に戻っていた)が、青く光っていた。『ごく一部ですが、人語を話すモンスターもいます』
「しかも、見た目以外全然怖くなかったわ。拍子抜けしちゃう」
「とりあえず、『パズズ』がいる間に街へ急ごう」と、俺は言った。「あんなデカいのが近くにいれば、他のモンスターはここへは近づいてこないはずだ」
「「「「了解!」」」」
俺たちは『バグボート』に乗り、遠くてまだ見えない『オリオン』に向かって飛び始めた。




