242話 6月15日#03
さて。
食堂で昼飯を食った後、俺たちはいよいよ『バグボート』に乗ることになった。
マリウスさんの案内により、俺たちは集落の外にある『バグボート』練習場まで来ていた。
「あ。よく来たね」見慣れない、俺より背の高い女性がこちらにやって来た――この集落の人、みんなデカいな。
「この方は、『バグボート』の整備をしている『ルー』さんです」と、マリウスさんは言った。「美女だけど、独身です」
「余計なこと言うなよ」ルーさんは笑いながら、俺の方を向いた。「それで、君たちが練習したい旅行者なんだね?」
「はい」俺は頷いた。「まずは、何をしたらいいですか?」
「んー。砂から目を守る『ゴーグル』と、強い日差しから体を守る『コート』が必要だね……あと、今の時間帯は暑いから飲み物も」
「いちおう全部用意してあります」
「へえ」ルーさんは目を細めた。「なかなか優秀な『旅行者』たちだね」
「なかなか面白い方たちですよね」マリウスさんはそう言うと、俺たちに軽く手を振った。「私はそろそろ集落へ戻ります。また機会があったら、ここへ遊びに来てくださいね」
俺たちがマリウスさんに手を振り返しているのを見守ったルーさんは、奥にある小屋から1台の『バグボート』を出してきた。
間近で見ると、思っていたより大きくて……形がカッコいい。流線型の舳先や透明な窓などは人工のものだったが、他の部品は、まさしく昨日見た『グライダービートル』そのものだった。
側面についている翅や、操縦者の頭上を守る屋根|(よくよく見ると、『グライダービートル』の前翅2対でできていた)、それと、翅の下にある4本の脚は、ほぼそのまま使われていた。
「とりあえず、コートとゴーグルを着ようか……着ながらでいいから、私の軽い説明を聞いてくれよ」
ルーさんによると、『バグボート』は、1台につき2頭の『グライダービートル』の死骸が使われる。
『グライダービートル』は、後翅を羽ばたかせるだけでなく、後脚にある『ブースター』から魔力の粒子を噴き出し、飛んでいるときの姿勢を安定させているらしい。
また、普通のコガネムシとは異なり、腹の下側は前翅並みに硬くなっている。他のモンスターと戦う時、前翅を閉じて、敵の上からダイビングアタックを仕掛ける|(!)時などに役立つらしい。
その腹の下の『板』は、そのまんま搭乗する『ボート』になっている。そこにハンドルやブースター、それとブースターに繋がる『魔力増幅装置』などを付けると、あっという間に『バグボート』の下半分が完成する。
「で、具体的な乗り方なんだけど、」ルーさんは、そう言いながら『ボート』部分に腹ばいになった。「こうすると……」
――ガチャン!
屋根になっていた『前翅』が下におりてきて、機体の下側の『ボート』と、搭乗者を挟み込んだ。
「へえ、そうなるのか」と、レイがつぶやいた。いつになく興味津々な様子だった。
「『ボート』に敷かれたクッションが体を支えてくれるから、ちょっと慣れれば姿勢を安定に保つことができるよ――あと、ハンドルについている赤色のところをずっと触るように持って。魔力の供給口は、その赤い部分の中にあるんだ」
「あ、あの……」俺は恐る恐る話しかけた。「俺、魔力ないんで、このちっこい奴の魔力使おうと思ってるんですけど」
「何、そのテキトーな言い方!」リアはぷんすか怒った。
「……ああ。なら、ここの前のところにあるスペースに箱が置いてあるだろ?その中に黒いコードがあるから、それをハンドルのこの部分に付けて、もう片方の端を小さい君が持っていれば飛べるよ」
「なるほど」
「じゃ、」ルーさんはニッコリ笑った。「説明が長くなっちゃったけど、そろそろ練習始めようか!……まず、誰が乗る?」




