241話 6月15日#02
「実はですね。天空を周る星々から砂が落ちてきていまして……その『星の砂』をこうして集めて、歯車を動かしているのです」
ボリスさんは、遠い目をして、話していた。
「これが作られる遥か昔から、私たちの先祖は『星の砂』を利用してきました。魔力を確保するだけでなく、薬の材料や建築素材にもなっていました……そして、それは今も同じです。私たちは星々からの恩恵を受けているのです」
俺たちがぽかんとしていると、やがてボリスさんはくすくす笑い始めた。
「……ま、今のは古くからの言い伝えです。ここは砂が多く舞っていますから、放っておいても勝手に砂が集まります」
「……じゃあ、この下に開いてる穴は何なの?」リアは、暗くて見えない穴の底を指さした。
「それは……『流砂』ですね」ボリスさんも足元を見た。「この『死の砂漠』には、いくつもの『流砂』の穴が開いておりまして……なので、地面の下に空洞があるのは確かなんですが、なぜそんなものがあるのかは、未だ解明されていませんね」
「……そんなものの上に建物を建てて、大丈夫なんですか?」
テンが心配そうに言うと、ボリスさんはニコッと笑った。
「ええ、大丈夫ですよ。この建物、実は魔法石の力で少し浮いているので」
『「「「え!?」」」』
――何かこの集落、驚くことばかりなんですけど。
その後ボリスさんに、集落の入り口近くにある大きめの建物の中へ案内してもらった。
そこにいたのは、行商人のティナさんだった。
「お!あんたたちっすか」ティナさんはニコッと笑った。「ちょうどいい。あたしの店で、何か買わないっすか?」
「いや。それ、ここの人たちのために持ってきたやつでしょ?」テンは苦笑いした。「僕たちが買っちゃったら、ここの人に悪いですよー」
「……おや?」ティナさんは不思議そうな顔をした。「あんた、普通にしゃべってるね」
「……え?」テンは目を瞬いた。
「いや。昨日の夜の印象だと、人見知りなのかなーって思って……」
「……あ。こいつ、『人見知り』じゃなくて『虫見知り』なので。普段はうるさいほどよくしゃべります」
俺がそうフォローを入れると、テンが「毒のある言い方するね!」と、俺の耳元で囁いた。
「……あ、なるほど」ティナさんは何度か頷いた。「そういう人、たまにいるっすね。観光で来て、『虫厩』にいる『グライダービートル』を初めて見て、顔を真っ青にさせる人とか」
「……ごめんなさい。どうしても虫が苦手で」
「ちなみに、どこに苦手意識があるっすか?」
「一番苦手なのは、脚と触覚です……あと、僕の方めがけて飛んでくるのとか」
「あー、なるほど」ティナさんは、さっきと同じように首を縦に振った。「虫は、目がよくないのによく飛ぶから、人がいることに気づかないこともあるっすね」
――さすが、虫についてよく知っているな。『グライダービートル』を何頭も飼っているだけのことはある。
「……ま、それはともかく。ボリスさん、」ティナさんは、俺たちの後ろにいるボリスさんに話を振った。「何か買ってくださいっす。商品が残るのは嫌なので」
「んー、私は特に欲しいものは……あ。虫嫌いのあなたに、プレゼントしますよ」
ボリスさんは、ある商品を手に取った。
「こちらなんていかがです?」
「これは……何?『手』みたいだけど……?」
テンは知らないらしく、首を傾げていた。
「それ、『魔除けのお守り』だな」
と、俺が言うと、テンは「何で知ってるの?」と訊ねてきた。
「……いや。俺も持ってるから」俺は、服のポケットから『ハムサ』を取り出した。
「君とお揃いでも、うれしくない」テンはそう言ってむくれた。「……てか、何で君が持ってるの?」
「私が、カイトの誕生日にプレゼントした」
――レイ、余計なことを言うなよ。ほら……
「うそーーーー!?」
テンはがっくりと、その場に崩折れた。
「……仕方ないわね」リアがため息をついた。「あたしたちが全員分買いましょ。あんたはテンにプレゼントしてあげて」
「私が?何で?」レイは首を傾げた。
「『魔除け』だから」
「…………?」
――リアの機転で、この場は何とか収まった。




