236話 6月14日#04
本当に、1時間で集落へとたどり着いた。
虫ぞりは地面に降り、集落の入り口へと入っていった。暗くてよく見えなかったが、その時の感じから、ここは土の壁に囲まれた場所なんだろうと思った。
入り口の先にあったのは、壁にある松明の明かりだけで全体が見渡せるくらいの、少しだけ広い空間だった。虫ぞりと『グライダービートル』だけで、ほとんどいっぱいになっていた。
ティナさんは、俺たちに虫ぞりから降りるよう合図し、自分は奥から現れた男性と話を始めた。
「やあ、ティナ君。いつもここへ来てくれて、ありがとう!」
「毎回言うことはないっす。それが仕事なんで」
そしてティナさんは、持っていた紙を男性に見せた。
「『営業許可証』っす。あたしと虫と……あと、あの人たちの宿を用意してくださいっす」
ティナさんは、俺たちの方をちらっと見た。
「見た感じ、ホントにただの旅行者だと思いますけど、心配なら『検査』にかけてもいいっすよ」
――『検査』?
「おや、旅行者の方ですか」男性は、俺たちに近づいてきた。「ようこそ『ユスティティア』へ。私はここの警備のトップを勤めているマリウスと申します」
男性は、ティナさんと同じく褐色の肌に茶髪だったが、緑のタトゥーはなかった。
男性は、穏やかな赤い瞳の目で俺たちを見つめた。
「カイトです。よろしくお願いします」
「あ。僕はテンです。ひと晩お世話になります!」
「あたしは、ソラ……」
「私はレイだ。よろしく!」
「えへっ!リアです♪1泊2日でお願いしまーす♪」
『ワタクシ、ピエール33世と申します!観光が大好きなので、ぜひこのユスティティアを案内していただければと……!』
――毎回思うが、俺たちは自己紹介すら個性的だ。
マリウスさんもそう思ったのか、ニコッと笑って俺たちに話しかけた。
「確かに人の良さそうな子ばかりだ……あ、心配はしなくていいですよ。『検査』はそんなに難しいものではないですから」
俺たちはティナさんと別れの挨拶をすると、今度はマリウスさんの案内で、集落の奥の方へと進んでいった。
――というか、なんだかこの集落、まるで1つの『家』みたいだ――高い建物に囲まれた複雑に入り組んだ道を歩いているのだが、どちらかというと廊下を歩いている気分になる。あちこちに松明がついていて明るいし、ほとんどの建物には、入り口に扉がついてなかった。
「……あ。ここですよ」マリウスさんは、ある建物の中を指さした。「1人ずつ中へ入ってください。数分で終わりますから」
とりあえず、まず俺が中に入った。
中は、ミステリアスな香りの漂う不思議な空間だった。床には大きなラグが敷いてあり、壁にはタペストリーがいくつも掛かっていた。
奥に、カーテンで囲まれた空間があった。カーテンは開いていて、その空間にはテーブルと、2脚の椅子が置いてあった。
片方の椅子には、すでに人が座っていた。首に大きな飾りのついたネックレスをつけ、神秘的な紫色の服を着ている女性だ。
彼女もティナさんと同じく、赤い瞳と緑のタトゥーが、とても印象的だった。
女性は、紙をいくつかテーブルに置いて、何か悩ましげに独り言を言っていた。俺には全く気づいていないようだった。




