229話 6月12日#06
宿に帰ってきた頃には、テンの顔に少し明るさが戻ってきていた。
「……でね。これが『さそり座の石』」
テンが青紫色の石を、俺たちに見せた。
「何かねー、金庫にこんな魔法陣があって、これがたぶん『金庫の鍵』と関係あるんじゃないかなーって思ったんだけど」
テンはそう言って、写真をみんなに見せた。
金庫らしき箱の扉を撮った写真だった。真ん中に、魔法陣が描かれている。
「『月の力、『さそり座』の者のみ開くことを許可する』」
俺が魔法陣に書いてある古代文字の文章を読み上げると、テンは「ね?」と言った。
『つまり、『月星座』が『さそり座』の人だけ開けられるということですかね?』
「そんな感じにしか思えないんだけど」
その時、ピエール33世とリアが、カメラと顔を向き合わせた。
『あれ?テンさん……』
「生まれの月の星座が『さそり座』……?」
「……みたい」
そう言って、テンは『スコルピウスの石』を手に取り、反対側の手のひらを上に向けた。
――すると、板状の氷が手のひらの上に現れた。
しかも、いつまで経っても氷は融けず、テンが指を鳴らすまでずっと手のひらに残ったままだった。
「これ、『変態』の『アイスバーン』って魔法じゃないかと思うんだけど」
「すげーな!」俺はテンの肩を叩いた。「よかったな、『石化』させるやつじゃなくて!」
「うん!奴と同罪にならなくてよかった!」
テンは、落ち込んでから初めてニコッと笑った。
――だが、『アイスバーン』は、一体何に使える魔法なのだろうか?
「……あー。そこはまだまだ未知の世界だけど、」テンは、自分の手のひらを指さした。「『床』じゃなくても氷が張れるって知って、探せば結構いろんな使い道あるんじゃないかなー、って思ってる」
「それって、板状にしか張れないものなのか?」と、レイは訊ねた。
「うーん……こうとか?」
テンは指でVの字を作って、「『アイスバーン』」とつぶやいた。
――すると、テンの左手を覆うように、Vサインをしている手の形の氷ができた。
「えー!?そんなこともできるの!?」リアは立ち上がった。
「これ……インテリアの小物になりそう……」ソラが、よくわからないことを言っている。
テンは、氷から手を抜きテーブルに置いて、面白そうにじっと見つめていた。
「これ、いつまでも融けないな」
俺がそう言うと、テンは「うん」と頷いた。
「僕が消そうと思えば、すぐ消えてくれるんだけど」
「……あ、テン。もう1つ氷を作ってもらえないか?」
「はいはい、レイさん♪」
テンは氷で、今度は何か凝ったものを作り出した。何だろう?――まさか、『クアッカ』?
「はい、レイさんあげる♪」
すると、レイの手のひらの上に乗せられた『クアッカ』が、いきなり燃え始めた。
しばらくして炎は消え、後には何も残らなかった。
「……高温で燃やせば融けるんだな」
「う、うん。そうだね……」
――また、テンが泣きそうだ。
「錬金術で作る氷と同じだ」
「……ま、まあ、いろいろ使い道がありそうだな」俺はテンの背中をさすりながら言った。「あと、レイ。人からもらったものを、むやみに燃やすな」
「……ごめんなさい」
「いい魔法を使えるようになって、よかったわね♪」
「……そうだね……」
テンは、がっくり肩を落とした。
それから、少しは反省したのか、レイがテンにまた頼んだ。
「さっきの、また作ってくれるか?」
「え……あ、うん」
テンは再び、レイの手のひらの上に『クアッカ』を乗せた。レイはじーっとそれを眺めて、「なかなか、かわいいな」とつぶやいた。
「……レイさん……!」
今度は感動のあまり、テンがまた泣きそうになっていた。




