228話 6月12日#05
マユさんは、お詫びにご馳走すると言って、自分が勤めているのとは違うカフェまで俺たちを連れて行った。
「本当に、申しわけありませんでした……!」
「……ま、まあ。結果うまくいったんで、あんまり気にしなくて……」
「……何、注文する?」
――レイ、空気読め。
「……でも、注文するのも大事……」
「……まあ、店入ったからには、注文しないといけないか」俺はため息をつくと、隣のテンの様子を見た。「テンは、コーヒーでも飲むか?」
「……うん、それでいいや……」
テンは泣き止んでいたが、目が死んでいた。
「あ。ラズベリージャムの乗ったチーズケーキ……美味そうだな……」
テンの、俺と反対側の隣にレイが座っていた。テンがそうしてほしいと言ったのだが、本当にそれでよかったのか……
――注文し終えて、俺たちはゆっくり会話を始めた。
「そういえばあの、聞き忘れていたんですが、」俺はマユさんに訊ねた。「もう仕事して大丈夫なんですか?その、体調とか……」
「……あ、いえ」マユさんは悲しそうに言った。「何もしてないと、それはそれで城に閉じ込められてた1か月間を思い出してしまうので……」
「……つらかった……よね……?」
「……ええ」マユさんは下を向いた。「最初、何が起こっているのかよくわかりませんでした。夜、私は突然、有名なモデルから「奢ってあげる」と言われて、店へ連れて行かれて、何かそれから絆されちゃって……」
「……一番ダメな手口だな」
「それで、城に連れていかれてからは、ずっと怖くて……あの人、1日1回は、誰かしらに怒鳴りつけていたので……」
――それはつらい。
「あなたたちが来た時も、まさかあの城から出られるとは思ってなくて……」
「……いや。こっちも申しわけないなと思ってて……すぐに助けることはできなかったから……」
「……でも、警察を呼んでくださいました」マユさんは、柔らかな表情になった。「スカーレットがあの夜から姿を消してしまった理由は、全然わからないんですけど……」
「それは……あまり気にしないで……」
――俺たちを追いかけたから。たぶん、ドゥファンがアポロまで連れてきた。
「でも、そうなんですね……みなさんの大事な『石』を、スカーレットが盗んでいたなんて……」
――盗んだとはひと言も言ってないが……まあ、いっか。
「とりあえず、城でのことはもう気に病まないでください」
「……もう、終わったこと……気にしないで……」
それを聞いて、マユさんは微笑んだ。
「……何だかあなたたちを見ると、ほっとします。いい人たちもいるんだなって……」
「それはよかったです」
――俺、品行方正な騎士だし。
「みなさんと話ができてよかったです。心がすっきりしました」
その後、食事を終えた俺たちは、マユさんと別れて、街の中を歩き始めた。




