215話 6月9日#02
『太陽の神殿』の中には、昔からあるような石造りの建物があった。
巨大な円筒状の石柱がいくつも並び、高いところに天井があった。明るい光が石柱の間から差し込み、石の床に反射してまぶしいくらいだった。
その建物には、ある特徴があった――植物に覆われている。
石柱にはツタが絡まり、床の石の隙間から草が伸びている。石柱の間から見える外の景色には、豊かな森が広がっていた。
でも、動物やモンスターがいる様子はなかった。
「なんか、不思議な感じの空間ねえ♪」リアがぽつんと感想を言った。
「『植物だけ』ってのが不思議だ」と、レイは言った。「『生態系』とか、何もないのか?」
『えーっとですね』ピエール33世は黄色に光っていた。『ここの植物たち、実は生きてなくて……まあ、一種の『幽霊』みたいなものです』
「植物の……幽霊?」
『まあ、『生前』とかがあったわけではなく、ずっとここに生えてるんですけど』
「写真にも似てる……」と、ソラが言った。「前にここに来た時も、ほぼ同じ景色だった……」
『あ、前にもいらっしゃっていたんですね』ピエール33世は、今度は柔らかな白色に光った。『まあ、歩いて半日なら、普通来ますよね』
「確かにきれいな景色ではあるんだが……」俺はぼそっと言った。「他に何もなさそうだな」
「ううん、ある……」ソラは首を振った。「奥に……儀式用の祭壇が……」
ソラの案内で行くと、広い空間に出た。ここだけ白い壁に囲まれていて、床に、円の形の何かの模様が描かれていた。
「ふーん……」俺はあたりを見渡した。「何かこんな感じの、見たことあるな」
「……王都じゃないか?」と、レイは言った。「王宮前広場の地面に描かれてたやつ。ほら、十二星座のシンボルが描かれてるし」
言われてみれば、そのとおりだ。ちょうど等間隔になるように、12個のシンボルが円の一番外側に描かれている。
『実はあそこでも、似たような儀式をしていた頃がありましてね……まあ、今は関係ないですが』
それからピエール33世は、少し高いところを飛び始めた。
『たぶんカイトさんなら、この文章読めますね』
「……文章?」
『レイさん。カイトさんを、ワタクシの隣まで飛ばしてあげてください』
「了解」
レイは魔法で、俺を宙に浮かばせた。
『中央に、古代文字で文章が書いてありますよね?』
「確かに」
――しかも呪文とは異なり、手紙のようなわかりやすい文章だった。
「『私は『太陽の神』を復活させようと思っています。ここに『十二星座の石』を用意しました。『星の女神』様、私の声に耳を傾けてください。『太陽の神』に元の力をお与えください。私は、この国の繁栄には『太陽の神』が欠かせない存在だと知っています。この世界が崩壊の危機に晒されていることを知っています。どうか、『星の女神』様、私の願いを聞き入れてください。それが私の一番の願いです』」
「……へえ。面白いねー」テンは目を細めて笑った。「もしかして、今の文章の『太陽の神』を『月の神』に変えると、月の神様バージョンになるのかな?」
『おっしゃるとおりです』ピエール33世は黄色く光った。『ところでカイトさん、今の文章覚えられますか?』
「……いや、ムリ」
『……ですよねー!まあ、ダメ元で訊いただけです』
――いや。聞かなくてもわかるだろ。
『……というわけで、今度はテンさんの出番です!』
「……え?僕?」テンは首を傾げた。
『この文章の写真を撮ってください!』
そう言われて、今度はテンが、レイの魔法で浮かんだ。
「なるほど、なるほど……パチっと!撮れたよー!」
テンが現像した写真を見せた。結構きれいに撮れている。
『カイトさん。この写真、よく見ておいてくださいね』
「何で?」
『実は、ワタクシの『月の神殿』はちょっと……崩れかけてるんです』
「「「「「え?」」」」」
『いや。昔ちょっといろいろあったんですけど……』ピエール33世の光はピンク色になった。『ワタクシ、太陽の神を『月の神殿』に落っことしちゃったことがありまして』
「「「「「え?」」」」」
『なので、ちょっと瓦礫がこの魔法陣の上に……』
「それ……機能するの?」
リアの言うことはもっともだ。
『だいじょぶです!機能するように、石を並べるスペースを作りましたからっ!』
それからピエール33世は光るのを止め、真剣なトーンで俺に言った。
『この文章、人間が星の女神さんにお願いする文章みたいでしょ?なので、人間が読まないといけないんです』
「……じゃあ、ピエール33世の時は、俺が読めばいいってことか?」
『一応。ですが古代文字なので、儀式の時に、あなたが文字を読めなくなっている可能性があるのです』
ピエール33世は、俺の方にカメラを向けた。
『ワタクシ、この文章暗記しているので、今のままでも儀式はできるんですけど、保険としてカイトさんも文章のメモを持っていてください。現代語でいいので、暇な時に、この文章を紙にでも書いといてくださいね』
「お、おう。わかった……」
「ちなみに、『カイト君が古代文字を読めなくなっている可能性がある』ってどういう意味?」
テンが訊ねた。
『あー。これはカイトさんの『理解度』にもよるんですが……『石』を所持しなくなってからしばらくすると、『石』の力の効果が切れるんです』
「確かに、儀式をする時、『石』を手放す必要があるな」
――レイの言うとおりだ。
『今回の場合、みなさんずっと戦い続けているので、もしかしたら戦闘中に儀式をしなければならないことも……』
それからピエール33世は、ピコンと白く光った。
『……あ。現代語でいいなら、全員が1枚ずつメモを持ってる方がいいですね』
全員がこくんと頷いた。
「……じゃあ、カイト君。『翻訳』よろしくね!」
「そうだな」俺は頷いた。「できるだけ早くやっとくよ……」




