213話 6月7日−6月8日〜みんなの声が〜
〜194話から203話のレイの回想〜
私はずっと、体を動かせなかった。
かろうじて、肺とか心臓とか、生きる上で必要な部分は動いているのだが、四肢や首、まぶたなどは、自分の力では動かせなくなった。
でも、時々仲間たちの声が聞こえてきた。
「『石化』の症状を抑える薬草……確かこのあたりに……あった……『ディザリアス』!」
ソラが一生懸命治し方を調べてくれているようだ。
そうか、私は『石化』しているんだ……何だっけ?どこかで『石化』って言葉を聞いたな。みんなでその話してたような……
「お前……レイがこのまま死んでもいいのか?」
「え、えっと、よくはないけど……」
なぜかわからないが、リアがカイトの言葉に抵抗している。
「……わ、わかったわよ!小さくすればいいんでしょ、小さく!」
――と思ったら、リアは言われたとおり魔法をかけた。自分ではよくわからないが、前後の会話から、リアが私の体を小さくする魔法をかけたらしいことはわかった。
「いくわよ!……『ラバーショット:マグヌス』!!」
「……よかった。ちゃんと呼吸している」
1日以上経って、ぬくぬく気持ちのいい部屋にたどり着いた時、再びリアの魔法の名前を呼ぶ声が耳に入ってきた。
たぶん、元の大きさに戻してくれたのだろう。テンがほっとしているようだ。
『……あ、どーも!ワタクシ、『月の神』改め『ピエールネックレス』と申しますっ!』
「彼が……あ、いや彼女が……レイさんの『石化』の進行を遅らせているんです」
――あー、そうなんだ。月の神がネックレスになって……じゃあ、私はまだ治る可能性があるんだな。みんながこんなに頑張ってくれてるんだし。
それから数十分後、私の口に液体が流し込まれた。
何だかよくわからないけど、熱い――でも、胃に収まると、体に何か変化が起きていることに気づいた。
こう……体の内部から手足の指先まで徐々に温まっていくような、そんな感じ。
――でも、同時に眠くなってきた……あ、もうだめだ。治ったけど、起き上がれない。
何となく、誰かが温かい手で私の頭を撫でていた気がするけど、本当にそうだったのだろうか……?
その後、また目が覚めた。遠くで何か騒ぎが起こっていて、自分の周囲はとても静かだ。
「ソラが戦い始めた!村の者はみんな引き揚げて、死人は出てない!」
「教えてくれてありがとう。あとはあの子たちの力を信じるだけね」
――うーん、聞いたことのない声だ。一体誰だろう?
「アリエス……何とか頑張って。みんなに力を貸してあげて……!」
――あ。これはリアの声だ。それにたぶん、私はもう起きなきゃいけない。
ずっと動かしていなかったのでかなりぎこちなかったけど、体が少しずつ動き出した。
目を開けると、見慣れない部屋にいた。私以外には誰もいない。
「……あ!起きたのね!」
――いや、いた。リアが私の隣にあるテーブルの上にいた。
「……えーっと、」
――グルルル。
私のお腹が盛大に鳴った。
「……腹減った」
「もう!」リアが頬を膨らませている。「仲間たちが大変なのよ!ものを食べている場合じゃ……!」
「いや、いいんだよ」
見たことのない高齢の女性が近づいてきた。お盆においしそうな焼き菓子を乗せている。
「これでも食べて。あとお茶も飲んで。ソラたちが頑張っているから、きっと大丈夫。心配しないで」
「……あ、ありがとう……」
お茶も焼き菓子も美味かった。
それを食べている間に、リアから大体の説明を受けた。
スコルピウスが私を石化させたこと。
みんなで協力して、私をソラの郷まで運んだこと。
ソラの祖母の助力で私は薬を飲ませてもらい、『石化』から回復したこと。
そして謎の2人組がこの村を襲っており、この場にいない仲間たちがその2人と戦っていること。
「あたし、今、ほとんど魔力がなくて戦力外だから……」リアはうるうる泣いていた。「アリエス!あたしの代わりに行って!仲間たちを助けて!」
「……あー、うん」私はストレッチした。体が少し動かしやすくなった。「……じゃ、行ってくる」
「あ、ちょっと!」リアが私を呼び止めた。「そっち、トイレ」
「…………あ、」私はふと考えた。「トイレは行ってからの方がいいな」
「……えええええ!?」
――そんな感じで、私は仲間たちを助けるため、出陣したのだった。




