204話 6月8日#09
俺とソラが村の門まで戻ってくると、ちょうどそこにはテンがいた。ハイタッチした状態のまま、レイと話をしている。
「おお、レイ!」俺は2人に近づいた。「復活したんだな!」
「うむ」レイは嬉しそうに言った。「しかも、勝ったぞ」
ちらりとテンの方を見ると、後ろの方を親指で指していた。そちらを見ると、真っ黒に煤けて倒れている人がいた。
「あれ……あの変態?」俺はぷっと吹き出した「これまた、派手にやられてるし」
「レイさん、本気を出したからね」テンもくすっと笑った。「今度こそたぶん、懲りたと思うよ」
ふと視線を元に戻すと、レイとソラがハイタッチをしていた。
そして、村の周囲の柵を乗り越え、リアを乗せたピエール33世が現れた。
『いやー!一件落着のようですね!』ピエール33世は黄色く光った。『よかった、よかった!』
「ねえ♪あたしもハイタッチさせてよ〜♪」
それからみんなでハイタッチしていると、急に日に影がさした。
それが、雲によるものではないと気づいた俺は、弓を手に、さっと振り返った。
――誰か人がいる。空中に。
他のみんなも気づき、全員そちらの方を振り返った。
その『誰か』は地面へゆっくりと降り、それからこちらへゆっくりと近づいてきた。
――その人は、20代半ばくらいの男だった。
短く刈り上げた緑色の髪、濃いオリーブ色の瞳、丈の長い白い上着が錬金術師を思わせる。右手の中指にはまっている金の指輪が、太陽に反射してキラッと輝いた。
男は俺たちから数メートル離れた位置で歩くのを止め、しばらく無言でこちらを見つめた。
「あのー、」テンは、恐る恐る声をかけた。「……どちら様で?」
すると、男はニヤッと笑った。
こちらを攻撃してくる様子はないが、ごく一般の人とか、俺たちに味方してくれる人とか、そういうふうにも見えない。
――てか、空を飛んでたじゃん。
少しの間があり、男はようやく口を開いた。
「『星霊使いの弱点を狙って倒せる』普通の人間か……そんなのがこの世にいるとはな」
低くて、威圧感のある声だ。
「俺のためにいろいろ尽くしてくれるのはいいが、うお座の星霊使いはツメが甘いな。こいつらに圧勝されるほど弱い奴らを送ってくるとは……」
――ピスケス。それは確か、『ピース教団』のトップで、太陽の神とドゥファンを最も援護している星霊使いだ。
もう誰だかわかったようなものだったが、レイはあえて訊ねた。
「……『てんびん座の星霊使い』だな?」
「……ああ、そうだ」
――やはり、ドゥファン本人らしい。
俺たちは武器を握り、いつ何が起こっても対応できるよう気を張りつめた。
「……ああ。今日は戦うつもりはない」ドゥファンは手を挙げて言った。「貴様らには、もっと石を集めてもらって、それから全てこちらに引き渡してもらうつもりだからな」
『………………』
ピエール33世が、弱い緑色の光を点滅させている。何か考えているようだ。
「なるほど」ドゥファンは、俺たちの姿を1人ひとり眺めていた。「初めて貴様らの様子を直接見たが……攻守のバランス、連携、戦況の見極め……いろいろと優れた人材が集まっているようだな。いつも喧嘩ばかりしているこちらの陣営とは、まるで違う」
ドゥファンはニヤリと笑った。
「……だが、そんな貴様らに我々は勝つ」
そしてドゥファンの笑いが、だんだん嘲笑へと変わっていく。
「貴様らの強い絆が壊れていく様を、しっかりと見届けてやる……月の神にもよろしく言っておけ」
俺たちは、じっと黙って聞いていた。というか、動けなかった。あまりに圧迫感があって、息をするのも苦しい。
「俺は何かが壊れる様子を見るのが好きでな……特に、人の心が壊れていく様を見るのは、なかなか快感だ。貴様らも俺たちの手によって絶望しないよう、せいぜい頑張るんだな」
ドゥファンはくるりと後ろを振り向くと、地面を蹴って飛び上がり、どこかへ向かって飛んでいってしまった。




