192話 6月6日#09
「ホント、お前ら男って大嫌いだ」風呂から上がってきたスカーレットが、何かほざいている。「いちいち喧嘩吹っ掛けてくるし!この美しい僕に、平気で殴りつけてくるし!お前らみたいな醜い生き物は、全員この世から消えろよ!」
「『醜い』ねえ……」
「しかも、お前らは星霊使いですらないんだから、僕を傷つける資格なんてないんだ!」
「『星霊使いじゃない』ねえ……」
「お前ら2人は、ここから生きては帰さない……僕を傷つけたことを、後悔しろ!!」
そう言って、スカーレットは左足で、床を踏みしめるような動作をしようとした。
その左足に、俺は素早く自分の右足を引っ掛けた。
スカーレットはバランスを崩し、その場で派手に転んだ。
だが、すぐに立ち上がって、俺に右の拳で殴りかかってきた。俺はそれをさっとかわした。
すると、スカーレットの拳が石の壁に当たった。壁には大きなひびが入り、ぱらぱらと石の破片が床に落ちた。
「……やっぱり、」俺はちらりと壁を見た。「お前、他人を石に変えるだけじゃなくて、自分の体も石みたいに硬くできるんだな」
「それがどうした」
体が硬くなるということは、武器で刺したり斬ったりするのは難しい。武器を使っての戦闘とは相性が悪いだろう。
だが、いくら自由に硬くなれても、体全体を硬くできるわけではない。パンチなら、肘や肩は元の柔らかさがないと出すことができない。
――つまり……
「オラァ!」
再び拳で殴ってきたのもかわすと、俺はスカーレットの背後に回り込み、肩と首に自分の腕を巻きつけた。
「痛っ!」スカーレットは叫んだ。「ぼ、僕には男に抱かれる趣味はない!」
「……まだそんなこと言う余裕があるのか」
俺が締める力をさらに強めると、スカーレットは「痛い!痛い!」とわめき、じたばたともがき出した。
「な、何するんだ!?」
俺の顔に肘鉄砲を食らわせ、何とか絞め技から抜け出たスカーレットが、息を切らしながら叫んだ。
「体が硬いんだから、関節狙うしかねえだろ」
「ちっ……『ペトロスティンガー』!!」
レイに向かって使った攻撃を俺にもしようとしていたが、かわして一気に距離を詰めた。
この男は、距離をとった方が危ない。氷の魔法にしろ、体技にしろ、危険な攻撃が多すぎる。
だから、石化させる魔法|(たぶんさっきの『ペトロスティンガー』)さえ警戒していれば、ゼロ距離で戦った方が安全だ。
俺はスカーレットの腕を後ろから掴んでねじりあげ、背中の上に乗って体重をかけた。
「うぎゃああああ!痛いーーー!!」スカーレットの叫び声が、風呂の中で響き渡った。
その後、寝技で散々痛めつけて、俺は右腕でスカーレットの喉を締め付けた。
「ご、ごめん、なさ……!も、もう、悪いことは……何も、し、しな……!!」
「……お前がやったことは『ごめん』じゃ済まねえんだよ!!」
俺は怒りに任せて、スカーレットを浴槽に蹴り落としてやった。「ぼちゃーーーん!!」という派手な音を立ててスカーレットはお湯の中へ沈み、その後ゆっくりぷかーと浮いてきた。
「準備完了したわ……」俺の足元までやって来たリアは、青い顔で俺を見上げた。「あの……死んでないわよね?」
「さあな」俺は肩をすくめた。「あれは少しは死地に晒さねえと、反省も謝罪もしねえ奴だ」
俺はリアを拾い上げると、テンとレイのそばに近寄った。テンが、毛布に包まれたレイを両腕で抱いている。
「大丈夫か、テン?」
「な、何とかね……」テンは、血だらけになっていた。「でも、ちょっとレイさんを運ぶのは無理かも……」
「じゃあ俺がやるから、先を急ごう!――リア!変態が俺たちを追いかけてこないか、見張っててくれ!」
「了解!」テンの肩の上に乗ったリアが、力強く返事をした。
俺はテンからレイを受け取って肩に担ぐと、テンに続いて大浴場を出た。たまに後ろを振り返って確認したが、スカーレットが追いかけてくる気配はなかった。
俺たちは無事に、城から脱出することができた。
テンに殴られて顎の骨にヒビが入り、カイトの関節技で主に首と肩を痛めたスカーレットは、あまりの痛みでなかなか風呂から出られなかったみたいです。その後、ある人の魔法で怪我を治してもらいました。




