191話 6月6日#08
全速力で走ったら、何とかテンに追いついた。テンは、先ほどスカーレットと対峙していた部屋まで来ていた。
「……やっぱり落ちたときに、どこか強く打っちゃったのかな……」テンははあはあと息が上がっている。「ちょっと……お腹が痛い……」
「あまり無理するなよ」
俺はそう言って、右側の扉を開いた。
その途端、部屋にむっとした熱気が入ってくる。
中へ入ると、大きな部屋があった。この空間だけ、明るい白い光に包まれている。
その中央に、大きな風呂があった。10人以上が同時に入れそうだ。
そしてその中に入って、リラックスしている男がいる。こちらを見て、余裕そうに歪んだ笑みを浮かべていた。
「なかなか君たち、根性があるねえ」スカーレットは、上機嫌に言った。
「……レイさんはどこだ?」
「『レイさん』って、アリエスのことだな?……そこにいるぞ」
スカーレットが指した方を見て、俺もテンもリアもぎょっとした。
そこには、確かにレイがいた。裸にされ、氷の中に閉じ込められている。
――これは、怒っていいやつだよな?
「そいつさ、」スカーレットは、風呂から上がってきた――あ、海水パンツみたいなの履いてる。「よくわかんないけど、ずっと眠ってるみたいでさ……せっかくあのアリエスの、恐怖に怯える姿を拝めると思ったのに」
「……それはよかった」テンは、暗い目でスカーレットを見つめていた。「こんな下劣な奴がすることなんて、知らない方がいい」
俺ははっと気づいた――テンが最後にレイを撃った銃弾は、『麻酔弾』だったんじゃないか?
「まあ、おかげで服脱がせるのは楽だったけどな」
「その服は、今どこに?」
「は?」初めて、スカーレットがまともにテンの顔を見た。「何言ってんだよ。そんなの燃やしたに決まってるだろ」
――は?
「どうせ僕以外の男が見るわけじゃないし。服着てたって意味ないし、面白くもないし。だったら裸にしてから石にしてやった方が、本人のためにな……」
「……君さあ、」
テンは、ゆっくりとスカーレットに近づいた。
「何だよ?」スカーレットは、テンを侮蔑の目で見ていた。
突然、テンはスカーレットの頬を思いっきり殴った。バキッと、すごい音がした。
「……いい加減にしろよ」
スカーレットはたたらを踏み、そのまま後ろの浴槽の中へ「ぼちゃーん!」と落ちた。
――テンがマジギレしてる。
いつもへらへら笑って、蜘蛛の巣やバナナの皮を武器にしていた人が右ストレートぶちかましてるんだから、絶対めちゃくちゃ怒ってる。
――まあ、俺も気持ちはわかるけど。
「ね、ねえ、見て!」リアが、レイの方を指さしている。「首元、見て!」
振り返って、レイの首元を見た。レイは、ネックレスを着けていた。
「もしかして、ピエールネックレス!?」
「やっぱり、そうよね!」リアは俺の肩を、ぽんぽん叩いた。「月の神様、アリエスのこと守ってくれてるのよ!」
「そうか!」俺は少しほっとして、テンの方を見た。「テン!聞いてくれ!その……!」
スカーレットが、浴槽から上がってきた。そして、テンに近寄り、
「顔は僕の商売道具なのに、何傷つけてんだよ!」
スカーレットも、テンの胸の下あたりを殴った。
だが、何かが変だ。ものすごく嫌な感じの鈍い音がして、テンはその場に崩折れた。
「もしかして……あばら骨が折れた?」リアがかたかた震えている。
「血を吐いてるから、肺が傷ついたのかもな……」
俺はスカーレットを蹴りつけ、再び浴槽の中へ沈めた。
そして、肩の上のリアをつまむと、テンの肩に置いた。
「テン。もし『石』の力で傷が治って、動けるようになったら、レイの氷を融かしてくれ……無理はするなよ」
「ゲホッ……わかった……グッ!」
「リアは、毛布を出してくれ。レイを包んで運ぶ」
「……カイトは?」
「時間を稼ぐ」俺は、三度浴槽から上がってきたスカーレットを睨んだ。「準備が出来次第、この城から脱出する」
「……わかったわ!」




