186話 6月6日#03
俺たちは、とりあえず玄関奥の廊下を歩くことにした。
『これは、怪奇現象ですね』
ピエール33世はそう言いながら、あちらこちらにカメラを向けた。
「というかこのお城、全然壊れてなくない?」
リアは、寒いのが苦手なのか、手をしきりに擦っている。
「ねえ、レイさん」テンが、レイに近づきながら話しかけた。「寒いよね?僕のコート貸してあ……」
「全然」
――レイの周囲だけ、熱気に包まれていた。
「……あー、そうだね……」テンは肩を落として歩き出した。
「てか、これ」俺は頭を掻いた。「全部『氷霜の貴公子』がやったんじゃね?」
「え?こんなの、人間の魔法にしてはすごすぎだと思うけど……」テンは俺の方を振り返った。
「……モンスターが、わざわざろうそくに火を点けるか?」
「それはそうだけど……」
――もしかしたら、モルガン並みの知性を持つドラゴンでもいるのかもしれないが。
「扉が開かんな」
レイはそう言って、右手の鉄の扉を開けようとした。
「この扉も、凍ってるのか……?」
レイが、玄関でやったように扉を温めて、手前に引っ張った。
――思ったより簡単に開いた。
そして、その奥から冷気が一気に流れ込んできた。
「寒っ!」
部屋の中の様子は暗くて見えない。そして、冷凍庫の中のように寒い。
「何だろう、ここ?」
テンが首を突っ込んでいる。
「なぜここには照明がない?」レイはブツブツ言いながら、空中に3つほど小さな火を点けた。
――何かが見えた。
「「え?」」
『えーっと……』
みんなでしばらく固まっていた。
「……ここには、何もないな」
「うん。何もないね」
「そうね」
『そうですね』
「次行くか!」
――俺の目には、数体の女性の裸体の石像が氷漬けになったものがあったような気がしたけど、たぶん見間違いだろう。
そこからさらに奥へ行ったところに部屋があり、右側にまた扉があった。
こちらの扉は凍りついておらず、簡単に開くことができた。
すると、今度は熱い風が奥から吹き込んできた。
「何なんだ、この城?」
「寒かったり、熱風が吹き込んできたり……」
「……そろそろ引き返した方がいいんじゃない?」
リアがそう言うと、俺たちは全員頷いた。
「とりあえず、変な城であることはわかったし、崩れてる場所も少ないことがわかったしな」
「じゃあ……」
テンの声が消えた。振り向くと、そこに男がいた。
テンより少し低いくらいの長身で、痩せている。シャツを着崩し、妙に姿勢よく歩いてくる。
そして、指を鳴らした。周囲のろうそくが激しく燃え上がり、部屋がさらに寒くなった。
「あれは……まさか!」
「スカーレット様!?」
間違いない。あの鋭い青空みたいな明るい瞳と、つやのある金色の髪――根元が黒っぽいから、たぶん染めてる――ついでに髪を掻き上げたポーズも、色気がある。
その男が、後ろに数人の女性を従えて現れた。女性たちは、濃い化粧で生地の薄い服を着ている。何となく、みんな寒そうだ。
「……お前らか、侵入者は」
男――スカーレット――は、唸るように言った。
「君は、『スカーレット・シャウラ』だね。その後ろにいる……」
「……しゃべるな」スカーレットは、テンの言葉を遮った。
「え?」
「仕事でもないのに、男が僕に話しかけてくるんじゃない」
なぜか、スカーレットはイラついているようだ。
「お前らが、月の神の従僕か……男がいるなんて、胸くそ悪い」
――何となく予想はついていたが、この人も『石』の関係者なのだろう。
男は、レイを指さした。
「僕に用があるなら、早く言え」
「要件は……」
「だから、男がしゃべるんじゃねえよ!」
俺も怒鳴られてしまった。
「……じゃあ、私から説明する」レイが一歩前に出た。「もし『さそり座の石』を持ってるならください。以上」
「……あ?」スカーレットは目を細めた。
「何か文句でも?」
「……お前、男に囲まれて、よく平気でいられるな」
「……ん?」レイは目を丸くした。
「男の存在に慣れている、穢れた愚かな女を『調教』してやるのが僕の役目だ」スカーレットは、舌で下唇を舐めた。「この城に来たということは、覚悟ができているんだよな?」
――ちょっとこの人、言ってることがよくわからない。




