173話 6月3日#01〜天空の本気〜
日付が変わってしばらく経ち、うっすらと空が色づき始めていた。
深夜に『フェンリル』という大きな狼の群れが出てきて退治に手間取った、ということがあり、深夜番だった俺は、早めに休ませてもらった。
だが、モンスターの襲撃は、それでは終わらなかった。
『みなさん、起きてくださーい!またモンスターが出ちゃいました!!』
少しは眠らせてくれよ、と思いつつ廊下に出ると、テンと、その肩の上にリアがいた。
「一体何のモンスターだ?」
『『スピンドルスパイダー』のお母さんと、その子どもたちです〜!!』
――それを聞いたテンは、くるりと回れ右をして自室へ向かおうとした。
「こら!だめよ!」リアが、テンの肩をぺちぺち叩いている。「虫が嫌いでも、モンスター退治は頑張んなさいよ!」
「……テンがいかねえなら、レイを叩き起こすけど」
俺のその言葉を聞き、テンはまた、こちらをくるりと振り向いた。
「……レイさんの安眠を、妨げるわけにはいかない!」
「そうよ!あんたも『愛』のために戦うのよ!」
勇ましく甲板へ出る扉を開くテン。
――しかし次の瞬間、テンはその場で凍ったように動かなくなった。
俺は固まっているテンをほっといて、ソラに話しかけた。
「どんな感じだ?」
「前にいる大きいのが母親……子どもは、この船を取り巻いている……」
――いや、『大きい』ってどんだけデカいんだよ!
薄暗くてわかりにくいが、ピエール号と同じくらい大きい。地面にいるはずの蜘蛛の眼がこちらをじっと見つめている様子が、甲板からよく見える。
今、ソラは魔法盾を張って、ピエール号を守っている。しかしそのシールドの上を、小型の|(といっても人間くらいの大きさがある)蜘蛛が這い回っていた。
「どうすればいい?」
「この蜘蛛の外殻には、魔法が効きにくい……レイなら大丈夫かも。あたしやリアの魔法だと無理……」
「剣や銃は通るのか?」
「うん……眼を狙って……でも、あたしが魔法を解かないと、攻撃できない……」
――そうか。物理系のシールドを張ってくれているのか。
「……時間勝負ってことだな。わかった……おい!テン!聞こえるか!?」
――テンは、床に座って泣いていた。
「やっぱムリ……」
「しっかりしなさいよ、この『野菜男』!!」
リアが発破をかけているが、テンは精神的ダメージが大きく、立ち直れないようだ。
「テン!」俺は呼びかけた。「戦うにはこのシールドを解かなきゃなんねえ!船内に侵入される前に、全部排除するぞ!」
「えー……」
「お前、レイの安眠を守るために頑張るんだろ!」
「……うん、頑張る!」
――よくわからんが、この男をやる気にさせるには、レイの名前を出せばいいのか。
そして、シールドが解かれる。人間大の子蜘蛛が、ぼたぼたと甲板に落ちてくる。
俺は剣を抜いて、子蜘蛛の眼を狙って突き刺した。子蜘蛛はすぐに体を丸め、動かなくなった。
「なるほど……」
納得した後、ちらりとテンの方を見やった。
――ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!!
烈火のごとく火を噴くテンの回転式拳銃。全て正確に、子蜘蛛の眼を撃ち抜いている――いや、マジで速え……
しかも、再装填時間が極端に短い。1秒か、2秒くらい。
薬室から取り出した薬莢が一瞬で消えてなくなり、代わりの弾がどこからともなく出てきて、手で押し入れるだけで全ての薬室に装填できる。まるで、手品を見ているようだ。
「……とりあえず、俺も頑張るか」
俺は子蜘蛛の死体から剣を引き抜き、別の子蜘蛛へと近づいた。
――それから数分たち、半分くらいの子蜘蛛が退治された時、ピエール号の前にいた母蜘蛛が突然動き出した。かすかな「シュー」という音とともに、甲板の上に脚を引っ掛けた。
その時、後ろからソラが走ってきた。
「母親は……あたしが片付ける!」
俺たちの周りにいた子蜘蛛が、みんなピエール号から立ち退いていく。そして母蜘蛛の口が、ピエール号の甲板の上に現れた。
「……たあああああ!!」
ソラが、珍しく気迫のある声を上げながら母蜘蛛の口の中に飛び込むのと、母蜘蛛が口から火炎を吐き出すのは、ほぼ同時だった。
ソラは、炎に包まれながらも母蜘蛛を押し返し、甲板から完全に引き剥がした。
――そして、母蜘蛛の口の中に体がすっぽりはまった状態で、
「『スーパーノヴァ』!!!」
ソラの体は白く光り、大きな音を立てて爆発した。
『「「じ、自爆!?」」』
俺たちが驚いていると、母蜘蛛の頭が潰れて、甲板の外へと落ちていくのが見えた。
ピエール号の舳先に、ソラは立っていた。こちらを振り返り、何でもなかったかのように言った。
「母蜘蛛が消えれば、生き残った子蜘蛛は去る……その子蜘蛛たちは、自分の力だけで生きていく……」
『「「………………」」』
――ソラの恐ろしい一面を知ってしまった。
一方テンは、戦いが終わったと判断した途端、
「もー外に出たくないー!蜘蛛も一生見たくないー!!」
そう言い捨てて、船内へと駆け込んでいってしまった。
「……レイが起きたら、蜘蛛の死体を全部燃やしてもらうか」
「そうね」
俺とリアは肩をすくめた。
???:そういえば、テン君。君は普段、銃をどこに仕舞ってるんですか?
テン:あ、それ訊きます?……まあ、気になるのはわかります。銃弾も写真も手のひらに突然現れるし。僕の手はヘンですもんね。
???:そうそう。
テン:あんまり大声では言えないんですけど、僕の手は収納(=帽子)と繋がっていて、中の物を出し入れできるんです。そういう生体と収納を繋げる『じん……』、あ、いや『技術』がこの世界にはあります。はい。




