172話 6月2日#05〜空を見上げて〜
その日の夜。
俺たちは、街道から少し外れたところにある岩の上にピエール号を停泊させて、その甲板でテーブルを広げて食事をしていた。
しばらく楽しくしゃべっていたが、ふとテンが空を見上げて物思いにふけっていることに気づいた。
「テン、いつもより静かだな」
「……ん?」テンは俺の方をちらりと見た。「星、きれいだなって思って」
「それは、さっきからあたしも思ってたわ♪」と、リアが会話に参加した。「何だかロマンチックよね♪」
「今の時期、時間……『しし座』や『おとめ座』が見える……」
「あそこに見えるすごく明るい星が、『おとめ座』の星で1番明るい『スピカ』だ」
さすがに、ソラとレイは物知りだ。
「『しし座』は?」
「それより西側にある……明るい星が『レグルス』で、ライオンの頭……少し暗い方が『デネボラ』で、ライオンの尻尾」
「……なるほど」
今まで俺は、いつも星を何となく見ているだけで、「だから何?」という感じだった。でも星座の知識があると、またちょっと見え方が変わる気がした。
「……あそこにある明るい星は?」
『えーっと、』ピエール号が言った。『それは木星です。惑星は他の星のように、場所が季節ごとに変化しているわけではないので、人間の皆さんでは何なのか判断するのは難しいでしょう』
「月もきれいだし、なかなかいい眺めだね」
しばらくみんなで空を見上げていたが、やがて俺はふと疑問に思った。
「そういえば、『しし座』のライオンって、どこのどんなライオンなんだ?」
すると、すぐにレイが答えた。
「この前、ヘルクレスが『12の難業』をしたと説明しただろ。あれのうちの1つが、そのライオンを退治する話なんだ。」
「隣の『かに座』も、ヘルクレスが倒した怪物……」
「え?じゃあ、『おひつじ座』は?」
「『イアソン』って別の英雄が、遠い国で『金色の羊の毛皮』を手に入れ、自分の国へ持って帰る話があるんだが、その『金色の羊』が『私の師匠』だ」
――レイの師匠、毛皮にされてる……
「あ!『あたしの師匠』はね!」リアが挙手して言った。「その『イアソン』を英雄になるまで育てた『ケイロン』って名前の『ケンタウルス』がモデルなの!」
「『ケンタウルス』って、体の上半分が人間で、下半分が馬の怪物だっけ?」
テンがそう言うと、ソラが「うん……」と頷いた。
「『ケンタウルス』は、みんな乱暴で好色家……でも、『ケイロン』は例外で、賢くていい人……」
「あたしの師匠、めっっっちゃ弓が得意だから『いて座』になったのよ!」
「私の師匠も、『至宝』と呼ばれた立派な毛皮になったんだぞ」
「あたしの師匠は……英雄の最初の『偉業』として倒された……」
「……みんな、何だかよくわからん自慢大会してるんだが」
――でも何か、話聞いてると楽しい。
「いつか、僕たちも『英雄』の仲間入りをしちゃったりして」
テンがおどけた調子で言った。
「それに見合う冒険はしているはずよ♪」と、リアも言う。
「どこかに『英雄賞』みたいなの、ないのかな……」
「あったら、間違いなくあたしたちは表彰されるわね!」
『よければワタクシが作りますよ!自作でトロフィー作ります!』
ピエール号はノリノリだ。
「『一緒に旅していた神様が作ったトロフィー』なんて、面白い響きだね!」テンは楽しそうに言う。
「でも、ありがたみに少し欠けているわね」リアは肩をすくめながら言う。
『なのでみなさん!トロフィーのために『石集め』頑張ってくださーい!』ピエール号が、結局人間たちに棚上げしている。
「何だかちょっと違う気が……」ソラが何やら悩んでいる。
「うん、美味い!もう1皿くれ!」レイは、既に食い物のことしか考えていない。
みんなの様子を見ながら、俺は1人でくすくす笑っていた。




