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月と星座と剣士の旅〜魔法が苦手な俺が、魔法で神様を救う話〜  作者: く~が~
ケレス‐アトラス編

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165話 6月1日#13〜『黄金の林檎』を求めて②〜

 母上とは、普通に戦っても勝ち目がないことは、我の目から見ても明らかだった。



 ――だから、どうにか母上を欺いて手に入れるしかない。



 現在の立ち位置から見ると、我の方が『林檎』の木に近いように見えるが、実際は違うのだろう。あのヘビが1匹でも動き出し、我の背を噛みつこうものなら、我は木にたどり着かないだけでなく、命を落とすことになる。



 「何だ?『林檎』は要らないのか?」


 「……くっ!」



 ヘビが数匹、我を挑発するように囲み、息の抜けるような音を鳴らし続ける。これは――無理だ!我にできることではない!


 考えてみれば、我はか弱い人間どもに力を借り、助けてもらいながらでなければ、この『ポムドール』へ来ることすらできなかったのだ。



 「我は、弱い……のか……」



 ――ふと思う。こういう時、弱い人間どもはどうするのだろう?



 アリエスは、力でゴリ押ししそうだ。こんな大きな相手でも、恐れずに戦える。そんな奴だ。


 サギタリウスは逆に、どこまでも逃げ回りそうだ。普段このくらいの大きさの差を体感しているから、かえって怯むことはないのかもしれない。


 レオは?あいつは頭が回る。武器のゴーレムも大きくて強い。この母上には敵わないかもしれないが、最後まで踏ん張っていこうとするに違いない。


 星霊使いではない人間には、母上と渡り合うことはまず無理だろう――でも、カイトは仲間を仕切ってその場を切り抜けられそうだし、野菜男は変な術を使って他の奴らの手助けをしそうだ。


 奴らは互いの力を借りる――しかも、いつの間にか我もその中にいる!そもそもなぜ我が、こんなに奴らのことを理解しているのだ!?


 奴らとは旧知の仲ではない――出会って10日も経ってない!レオ以外は!


 レオだって、我の生きてきた時間と比較すれば、つい最近会ったようなものだ。なのにこんなにも……



 「……待っていても仕方がない」母上がつぶやくように言った。「何もしないなら、この場で亡き者にしてやろう」



 ――こんなにも、我は奴らのことを理解できた。奴らが本気で、我に力を貸してくれたから。



 「だから今度は、我が奴らに力を貸す!力を取り戻して、奴らに借りを返す!」



 我は再び空へと飛び上がった。先ほどとは異なり、とても身が軽い。あっという間に、『林檎』の木が小さな点のように見えた。



 「……いや、何かがおかしい!」



 我には、元からこんなに飛翔能力はない。高い山を越えることはできないし、大海原を飛んで向こう側の岸へたどり着くこともできない。なのに……


 我は自分の頭の上を見上げた。黄金色の雲から、ぱらぱらと雨のようなものが降っている。


 『雨』は、我の体に当たると淡い光を放ち、まるで皮膚に吸い込まれるようにして消えてゆく。



 ――そして突然、明るい光が我を包んだ。



 我は目を瞑った。何だかまた、地面に向かって引きずり落とされている感覚がした。


 だが、我は負けじと上に向かって飛ぼうとした。


 しばらくそうして抗っていたが、やがて体の動きが止まり、ゆっくりと目を開けた。


 そこには母上がいた。じっと我を見つめている。



 「……ほう。思っていたより立派に育ったんだな」



 ――どういうことだ?さっきまでと言っていることが逆だ。



 「何かはよくわからないが、よい『学び』をこの世界から得ることができたんだな」


 「……何を言っているのか、よくわからないのだが」



 そして地面に降りた時、はっと気づいた――自分は四つ足で立っている!



 体全体は見えないが、我はドラゴンの姿をしているようだ。太い尾も生えているし、前脚は、どう見ても人間のものには見えない。



 ――何より、体全体が『レジェンダリ』の証である金色の鱗に覆われている!



 母上は後ろへ下がると、腹を地面につけて、我をじっと見つめた。



 「妾の家系は、卵の時から『ポムドール』の外で1人で暮らす。親は一切世話をしない」



 母上は、我に話しかけた――よくはわからないが、どうやら母上は、最初から我と戦うつもりがなかったらしい。



 「……ただし、その子が長い旅路の果てに『ポムドール』へ帰ってきたら、その力を試す。『ポムドール(黄金の林檎)』に認められるかどうか……」



 その後の母上の説明によると、ポムドールでは、『学び』のない者は飛ぶことができず、『学び』を悟った者だけが、飛ぶことを許されている。


 つまり、飛ぶことができた我は、何かしらの『学び』を得たから。そのように、『ポムドール』が、そして母上が認めてくれた。



 「貴様は『レジェンダリ』としての誇りを持っている」母上はそう言った。「その誇りを持ち続けよ。そして、自分の身の回りの者や、次の世代の者に伝えるのだ……「この世界は常に『レジェンダリ』のものだ。この世界を壊すものには、我らが制裁を加える」とな」


 「……わかった」



 我は、何か勘違いをしていたのかもしれない。


 我が一族は、ポムドールを守る番人。地上を破壊し、支配をした愚かな『レジェンダリ』とは異なる。



 「我は母上の意志を引き継ぐ。それだけの『レジェンダリ』になってみせる!」


 「……なかなかよい返事だ。楽しみにしておるぞ」



 それから、ふと思いついたように、母上は口を開いた。



 「一度ここを離れると、またしばらく妾には会えぬ。もう一度『鍵』の欠片を手に入れ、1つにして扉を開けねば、ここへは帰って来れん」


 「……そうか」我は母上を見た。「なら、ここを引き継ぐ時に、また来るとしよう。我には成さねばならぬことがあるからな」


 「それなら、そのことを全力で頑張ってみよ。さすれば、また新たな『学び』が増えてゆく」



 ――そして、その『学び』の連鎖が、人生――いや、竜生なのだ。



 「それさえわかっていればよい。母はいつまでもここで待っているからな」



 我は頷くと、空へと飛び上がった。驚くべき軽さだ。ポムドールの入り口まで、あっという間に着いた。



 「……あの様子だと、もうカイトたちとは会えないかもしれんな」



 でも、我は我なりに一緒に戦うことができる。例え離れていても……



 「……本当に、奇妙な連中だ」



 我は独り言をつぶやいてから、元の世界へ戻る扉を開けた。

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