164話 6月1日#12〜『黄金の林檎』を求めて①〜
カイトに言われたとおり、空に浮かぶ金色の扉へと近づいた。鍵穴に、鍵が刺さっている。
「待て!モ……ル…………ガン!!!」
後ろを振り返ると、あの憎たらしい『マーリン』とかいう奴が、満身創痍で我に向かって歩んでいこうとしていた。傷と火傷が体中にあり、空を飛ぶことすらできないようだ。
だが、人間の軍隊が『魔巧竜滅砲』とやらを発射し、奴の体を撃ち抜いた。
「ドギャアアアアアァァァ!!」
――奴は、叫び声すら穢らわしいな。
我は扉の鍵に向き直り、両手で持ってくるりと回す。
すると、ガチッという大きな音とともに、扉が開く。扉の向こうから光が差し、あたりが明るく照らされる。
「ぽ、ポムドールに……行くのは……俺だああああ!!」
しぶとく生きているマーリンの方へは二度と振り向かず、扉の中へと入っていった。
「ここが、本当に『ポムドール』なのか……?」
明るい黄金色の空。大地を覆う金色の草。近くに澄みきった水の川が流れている。
――母上が守っているにしては、ずいぶんきれいな場所だった。
「一体、母上はどこに……?」
おそらく、『黄金の林檎』の木へ向かえば現れるのだろうが、樹木らしきものは、そこかしこに植わっている。どれが『林檎』なのかわからない。
我はとりあえず、一番近くの木に近づいた。葉は金色なのだが……
「……実がなっておらんな」
――ハズレのようだ。
「……ということは、ここにある木の全てが『林檎』というわけではないのだな」
――少し面倒だな。
我はその場を立ち去り、別の木に向かった。
「……これも違うか」
その木のすぐそばに川が流れていた。人間の姿の我の膝下くらいの深さしかない。
我は覗き込んでみた。
「……カイトたちは、この姿の我しか知らないんだな」
以前は、この姿の我を見る度に、「これは自分ではない」と嫌気がさしていた。
――しかし、あいつらにとっては、これが『我』なんだな。
奇妙な話だが、悪くはない。
「……ま、次に会った時には、味方ではない可能性もあるが……」
――何か変な感じがする。そもそも、この感情は何だ?
我は首を振り、何となく川が流れてきている方へと歩いていった。
我は木を見る度に近づいてみるが、どれも実がなっていなかった。
しかし、川を遡り、川の起点へたどり着くと、そこにはひときわ大きな木が植わっていた。葉が純金のような輝きを持っていて、その中に実らしき丸いものがついている。
「……思えば、我はあれを見つけて、何をすればよいのだ?食えばよいのか?」
――なぜ、今までその問題に気づかなかったんだろう。
「いずれにせよ、誰もいないようだが……」
我は警戒しつつも、大木の方へと近づいた。そして、はっとして、後ろを振り返った。
我の後ろに、金色の巨大なヘビがいた。しかも2匹。ヘビはこちらに向かってきて噛みつこうとした。
我は空へ飛んでかわそうとした。
「……った!!」
――だが、なぜか地面の方へと引っ張られ、飛び上がる途中で落下してしまった。
「な、なぜ……!!!」
気がつくと、ヘビが我のすぐそばまで迫っていた。しかも、数が増えている。10匹くらいが、我の周りに集まっていた。
我は体に鱗と尾、そして手の指に長い鉤爪を生やした。
「貴様ら……近づくな!」
我は爪で引っ掻こうとしたが、すぐかわされてしまう。当たっても、硬い鱗に邪魔されて、傷一つつかない。
――そして、あることに気づいた。
「こいつら……同じ場所から生えている!?」
我は、『林檎』の大木の後ろを振り返って見た。そこには、もっとたくさんのヘビがいて、その中央に大きなドラゴンの、大きな頭があるのが枝の間から見えた。
「まさか……母上!?」
大きなドラゴンは、その大きな脚を『林檎』の大木の樹冠に引っ掛けた。木は大きくしなり、『林檎』の実がボトボトと地面に落ちた。
そのドラゴンが、頭を我に近づけた。その頭の周りを、無数のヘビの頭が取り巻いている。
ドラゴンはしばらく片目で我を見た後、急に笑い声を上げて、頭を引っ込めた。
「なかなかに、無様な姿ではないか、モルガン」ドラゴンはのそのそと我の前へ回り込んだ。「我が娘として、何とも恥ずべき姿を晒しているな?」
そのドラゴン――母上――は、想像以上のデカさだった。たぶん、ドラゴンの姿の我を一飲みにできる。ましてや、今の我では、母上の鼻の穴くらいの大きさしかない。
しかも、母上の肩からは、無数のヘビの頭が生えている。どのヘビも、舌を出したり引っ込めたりしながら、我をじっと睨んでいた。
母上の体は金色の鱗に覆われていたが、背中は金色の苔に覆われていた。その背中から生えている翼も、苔がびっしりついている。
しかし、尾だけは我と似ていて、長くて先が鋭く尖り、毒針があるようだ。先端の方だけ、黒くなっている。
あまりに姿が自分と違いすぎて、本当に血縁関係があるのかと疑いたくなったが、何も訊かなくても、母上が答えてくれた。
「妾も、若い頃は貴様のような姿をしていて、弱かった。体も大きくなかったし、他のドラゴンに負けて悔しい思いもした。しかしここに来て、妾は強くなった……まあ、若い頃も、貴様のように本来の姿を失ったことは、ついぞなかったがな」
ヘビの頭が、あざ笑うかのように一斉に「シューッ!」と音を鳴らした。
「また『黄金』を手に入れるため、ここまで来たようだが……残念ながら、ほとんどの『黄金の林檎』は妾が食べ尽くした。力を得るためにな」
――やはり、『林檎』を食べる必要があるようだ。
「残るはこの木くらいなものだ……さあ。欲しければ、妾から奪ってみせるがよい」




