161話 6月1日#09〜モルガンさんを守れ!③〜
空はもう暗くなっていて、東の方に星がきらめき始めていた。
そして、建物の影でさらに暗くなっているところで、モルガンさんは倒れていた。
「モルガンの様子……テンが診て……」ソラちゃんは一歩前に出た。「誰かが来る……あたしが、相手する!」
まあ、冷静に考えると、その方がいいよねえ――僕にいいカッコさせてもらえたら、なんてちょっぴり思っちゃうけど。
モルガンさんは、さすがにドラゴンだけあって、あんな高いところから落ちたのにまだ生きていた。血を流している様子もない。
内部で出血している可能性もあるのかな?と思って魔法をかけてみたんだけど、起き上がる気配はなかった。
気絶してるだけ?と思いながら顔を上げると、僕たちの周りにわらわらと人が集まってきていた。みんな同じ灰色のマント着ていて――しかも、中身がないっ!
顔も体も腕も脚も、全部消えてなくなっている……ただ、マントだけがそこにひしめいている。
――これって……?
すると、マントたちが一斉に呪文を唱え始めた。呪文が唱えられるってことは、ちゃんと中に人がいて、その人が透明になって見えないだけなのかも。
「『ヘリオスフィア』!」
ソラちゃんが球状の魔法盾を張ってくれている。でも、これだけの数の魔法を受け止めきれるかどうか……
僕は短い呪文を軽く唱えて、ソラちゃんのシールドにちょんと触れた。
すると、シールドが一瞬だけ、虹色の光を放った。ソラちゃんが驚いて目を見開いているけど、すぐに敵の魔法が僕たちに降りかかってきた。
ホント、いろんなのが飛んできた。炎とか水とか、そういう普通の魔法だけじゃなくて、地面から黒い触手が生えてきたり、いがぐりみたいなのが頭上から降ってきたり、両側から強い圧力で挟まれたり……
僕の魔法で強化されたシールドで魔法を押し返そうと、ソラちゃんは頑張っていた。僕もその背中を支えてあげて、2人で何とか凌ぎきった。
魔法がすべて止んだ時、同時にソラちゃんのシールドも消えてしまった。
そしてすぐ、僕は銃を構えた。灰色マントの集団の中から、悠然と1人の男が現れる。
「……動くな」
星霊使いはともかく、普通の人間が使う魔法は発動までに時間がかかる。呪文を唱える必要があるからね。
つまり、銃は構えられれば、魔法より優位に立てる……
――はずなのに、このピエールとかいう男、全然僕の銃を気にしてないようだ。
「えっと、あなたはどなたでしたかな」ピエールは、わざとらしく顎に手を当てて考えこんだ。「あ!確か『ヴァルキリー』とか名乗っている……」
「その名前で呼ばないよう、みんなに言ってるんだけど」
「あなた、その名前嫌ってるんですか?結構響きがカッコいいと思うんですが」
「………………」
――そのあたりのことは、あんまり掘り返してほしくないんだけど。
「……まあ、あなたの名前なんてどうでもいいでしょう」それはそれで、傷つくなあ。「とにかく、あなたにはここで死んでもらいます」
突然、銃声が鳴った。右肩を撃ち抜かれたようで、ヒリヒリと痛みを感じる。
左手で右肩を押さえながら、銃弾が飛んできたと思われる方向へ、銃を撃った。
灰色マントが、1人地面に崩れ落ちた。
「さすが。見えない相手に当てるとは、その若さで命を狙われ続けてただけのことはありますねー」
――だから、昔のことは掘り返さないでよ!
こいつら、僕の過去をどのくらい知っているんだろう?
「さて、この『灰色の集団』の中に、いったい何人銃を構えているか、わかりますか?」
「………!」
そうか、こいつら全員魔術師というわけじゃないのか!
同時に、なぜ透明にしているか、理由もわかった。
「……もしかして、みんな透明なのは君のせいだったりする?」
「……ご名答!」ピエールは、余裕そうにくるっとその場で回った。「私、錬金術でそういう薬、作れるんです!しかも効果は驚きの7時間!私みたいな最高峰の錬金術師でも、ここまでの品質のものを作れる人材はそうそういないでしょう!」
――何だかコイツ、いらなそうな雰囲気だなー。レイラたちが『生贄』にした理由もわかる気がする。
「……ということで、私はこれにて!」
ピエールは、服のポケットから何かを取り出した。
――瞬間、僕の銃が火を噴いた。
「……いってーー!!」
ピエールは、持っていた瓶を取り落とした。手からは血が出て、足元には割れた瓶とその中身が飛び散っていた。
そして次の瞬間、周囲から複数の銃声が聞こえ、ほぼ同時にソラちゃんの声も聞こえてきた。
「……『パワーガード』!!」
銃弾が四方八方から飛んできて、ソラちゃんの物理シールドで弾き返される。しかし、灰色マントの魔術師たちが、また呪文を唱える――ソラちゃんもさすがにこれには対応できそうもない。
――こうなったら、あと僕にできることは……
「『アロースプリッター:ミレ』!」
「「………………!!!」」




