156話 6月1日#04
俺たちの後ろにいた『ゾンビ』たちは、テンを手に乗せているソラのゴーレムを追い始めた。到底追いつけないだろうと思っていたが、気がつくと人数がさらに増えていて、ソラとテンがモルガンの元へたどり着けるのかどうかは時間の問題のようだ。
一方俺とピエール33世は、レイラを追いかけていた。ピエールは途中でどこかへ消えてしまった。何かしら、姿を隠す能力を持っている人なのかもしれない。
突然レイラは、こちらを振り向いて急停止した。俺は素早く反応して、剣を鞘から引き抜いた。
レイラはこちらへ突進してきて、両手に持った2本の剣を俺に振りかざしてきた。俺はそれを、自分の剣で難なく受け止めた。
「……久しぶりだな。剣を抜いて剣士と戦うのは」
俺がぼそっとつぶやくと、レイラはさっと身を引いて、俺との距離をとった。
「あんたは闘技士の『カイト』だね」と、レイラは言った。「確か、魔法にめちゃくちゃ弱いって有名だったけど」
――うわ!そんなことで有名になってても、全然嬉しくねえ!
「じゃあ、試してみるかねえ」
レイラは両方の剣をこちらに向けて、呪文を唱え始めた。
「『疾風まとう正義の剣により、この者を秤にかける。生きるべきか死すべきか、剣の一閃によって判決せよ』」
意味不明な呪文だが、剣で何かをしようとしていることはわかった。俺はレイラの両方の剣を注視して、何が起こっても対応できるように剣をしっかりと構えた。
突然、2本の剣が、俺に向かってレイラの手から飛び出していった。風が舞い上がり、それに乗って、剣は俺を切り刻もうと刃を振りかざしてきた。
俺は片方をかわし、もう片方を受け止めようとした。
レイラの剣の刃が緩やかにカーブしていたため、俺の剣の上を滑って右の手首あたりに当たった。骨に当たったので軽傷だったが、チリッと少し痛みが走った。
俺が大した怪我をしていない様子を、レイラはじっと見ていた。
「……あ。忘れてた」レイラはぽんと手を打った。「今は『石』を持ってるから、呪文を唱えちゃったら何するかわかるんだっけ」
レイラの剣は、ひとりでに持ち主の元へと戻っていった。
「ドゥファン様の『石』……よりによって、何でこんな奴の手にあるんかなあ?さっさと奪い返せば、私がこんな苦労をすることもなかったのに」
しかしレイラは剣を手にした途端、「あ」とまたつぶやいた。
「そもそも呪文のないドゥファン様たちの魔法なら、あんたの『石』は意味がないから無理に奪う必要がないのか」
「べらべらしゃべってねえで、俺とちゃんと戦え!」
レイラは俺の一閃をかわすと、独特の動きで体勢を立て直し、ついでに放った俺の蹴りも1本の腕だけで受け止めた。
俺はすぐに距離をとると、相手がどんな奴なのかざっと考えた。
――腕は細いし、女であることは確かなのに、俺の剣戟や蹴りを受け止められた。
そんな奴はグラディアトルには山ほどいて、方法もいろいろあるのだが、俺はその中のどれがレイラに当てはまるか、すぐに答えを導き出した。
「『魔法盾』か」俺は以前レイとソラが会話していたことを思い出し、目を見開いた。「まさかお前……『ウグイロン』!?」
「……ん~、惜しい!」レイラはわざとらしく指を鳴らした。「私は『ウグイロンの力を持った人間の女』だよ!『ウグイロンの女王』とも言うねえ!」
――意味わかんねえ!!




