151話 5月31日#01
翌日の朝早く。
俺たちは少し食料品を買い足すと、すぐにピエール号に乗り込み、アトラスに向かって出発した。
「人間とは、かように弱い生き物なのだな」モルガンは見下したように鼻で笑った。「意味のわからぬ『宗教』など信じねばならんほどに、心も弱い」
「……いちおう、『信仰心が強いほど、迷いがなくなって精神的にも強くなる』って話もあるけど」
「確かにな」
俺はリアの言葉に頷くと、ピエール号に声を掛けた。
「何か障害になりそうなものはあるか?」
『えっとですね……』ピエール号ははあと、ため息のような声を漏らした。『とりあえず、暑いです』
確かに、今日は何だか暑い。5月も末だからだろうか。
「アトラスの方が、プロセルピナよりいくらか涼しい……」
「え?」俺はソラを見つめた。
「アトラス……海岸近くに冷たい海流が流れてる……」
『それは、朗報です〜!』
ピエール号が、急に元気を取り戻した。
「思えば、ソラってなかなか博識だよな」俺は椅子に座りながら訊ねた。「何か勉強してるのか?」
「うん……しし座の星霊がいろいろ教えてくれたし……レイほどじゃないけど、本も読んでる……」
「ふうん」
「んー……」テンはさっきから、新聞の朝刊を手に考え込んでいる。
「……何か書いてあるのか?」
「なんかねー、最近『政府』や『軍』の対応に疑問を持ってる人が増えてるって。何かと後手後手に回ってるから……」
テンの目配せを見て、俺は自分たちのことだと悟った。
「俺たちが片づけとか、街の復興とかやらずにすぐいなくなるから、政府や軍が尻拭いしてくれてるってことか」
「ちょっと負担が大きくなってるのかもね……」
「それは、レイにも言い聞かせた方がいいかな……て、レイ?」
――そういえば、レイがいない。
「自分の部屋か?」
――と思った瞬間、リビングに現れた。
「ソフィアの『資料』を読み終えたぞ!」
「……どこにもないなと思ったら、お前が持ってたのか」
俺が振り返ると、レイは嬉しそうにテーブルにバンと資料を置いた。
「……で、何かわかったのか?」
「敵には『幹部』が3人いて、そのうちの1人が『ポムドール』を狙ってる」
すると、それまで悠然とソファに座っていたモルガンが、はたと動きを止めた。
「……何だと?」
「何かドラゴンらしいぞ、その『マーリン』って人」
「ドラゴン……『レジェンダリ』ってことか!?」
モルガンはつかつかとレイに歩み寄り、資料の1ページをレイから奪った。
そしてそのページに目を落とすと、顔に血が上り始めた。
「こいつは……!」
「ん?知り合い?」
「我の力を奪い……我の力を使い……偽りの『レジェンダリ』として、全ドラゴンを支配下に置こうとする男……!」
「『全ドラゴン』?」
「国内のドラゴンのことだ」モルガンが、紙をしわくちゃになるほど握りしめている。「なぜコイツが人間の宗教団体にいる?」
「それは俺にもよくわからんが……」
俺が手を差し出すと、モルガンは資料を叩きつけるように俺に渡した。
紙には写真があり、1頭のドラゴンが写っていた。全体がセピア色の写真なので体色はよくわからないが、黒っぽいようだ。体つきはがっちりしていて、翼はあるが飛べるのかどうかはわからない。体じゅうに棘があり、尾はまるでサボテンのようだ。
「……皆のもの、我についてこい!」モルガンは、普段より興奮して言った。「我も『ピース教団』とやらと戦ってやる!」
「……何か、やる気になってくれたようだね」
テンは微笑ましそうにモルガンを見つめた。
「……意外とドラゴンって、わかりやすいのね」
リアは不思議そうにモルガンを見つめた。
「……えっと、他の紙はいらない?」
レイはそう言って、資料をしまおうとした。
それを、俺が制する。
「いや。中身を共有させてくれ。雑誌に載ってた情報と突き合わせる」
その後、俺たちはダイニングテーブルを囲んで、雑誌と資料から得られる情報を突き合わせ、整理していった。
そうこうするうちに空は薄暗くなり、ピエール号はアトラスへとたどり着いた。
マーリンの写真をどこで手に入れたのか、気になります。
ソフィアの資料も、どんなことが書いてあるのか気になります。




