149話 5月30日#04
その日の夕暮れ、だいぶ暗くなった頃に、ピエール号はプロセルピナの飛空艇発着場に到着した。
みんなで街道をぶらぶら歩いていると、リアが声を漏らした。
「思ったより大きな街ね」
「そうだねー」テンも、あたりをキョロキョロしていた。
「とりあえず、適当に夕飯食って、宿を探すか……」
俺たちは、ほとんど人をかき分けるようにして、街道を進んでいった。人が多いせいか、日が暮れているのに蒸し暑い。
「あ、ちょっと待っててね」テンはそう言って、とことこ売店に近づいた。
そして戻ってきた時には、今日の夕刊を手に入れていた。
「んーっとねー、」テンは、薄い新聞をざっと眺めた。「闘技大会で『テラー・ビー』ってグラディアトルが、世界王者って呼ばれている人を倒したって……この人のこと、知ってる?」
「ああ、いちおう結構有名な人だし……」俺は頷いた。
「今日の夕刊で一番大きなニュースはそれっぽいね」テンは新聞を畳んだ。「うーん!平和っていいよねー!」
「俺たちが、あちこちでやらかしたことの話は載ってないのか?」
「そうだね……それなりに時間が経ってるし、みんな忘れかけているんじゃないかな」
「……そんなもんか?」
「うん。『そんなもん』だよ」
――意外と、新聞も情報収集のアテにはならないらしい。
「……あ」ソラが何かを指さした。「お店……『タンドリーチキン』が食べられるって……」
「何かちょっと珍しいな」俺はニヤッと笑った。「……行ってみるか」
店内に入り、注文して、みんなで食べていると、隣のテーブルで料理を食べていた若い女性のグループが、何やらひそひそ話していた。
「……何かね、最近『ピース教』っていうのが流行ってるんだって」
その言葉に、俺はピクッと反応した。
「それがね、結構ホラー系だって話で……」
――ん?『ホラー』?
「『教主』が霊を操るらしいよ!」
「やだ〜!怖い〜!」
「そんな宗教いやだ〜!」
「そういえば、何だっけ?『世界が滅びた後も生き残る『不死の民』となるために、『何とか』って人を信仰する』とか何とか言ってたけど?」
「え?勧誘でも受けたの?」
「うん。怖かったから走って逃げたけど!」
「確かに、変なの!信じれば『不死身』になるの?頭おかしい!」
「ね!『ホラー』でしょ!?」
――そういえば、『ピース教団』が敵だという認識はあったが、そもそもどういう教義で団員を増やしているかなんて、全然知らなかった。
「『世界が滅びた後も生き残る』……か」
ソフィアやピエール33世が言っていたことを考えると、『世界が滅びる』という前提があるのは頷ける。
――しかしなぜ、彼女たちはそんな会話をしているのだろう?
チラッと見て、俺は彼女たちが黒っぽい雑誌を手に持っていることに気がついた。
しかもそれは、『怪しい宗教』とか『心霊現象』とか『黒魔術』とかに関する記事を書いているやつだった。表紙にそんなことが書いてある。
俺は、『幽霊』やら『悪魔』やら『|(人を襲う)宇宙人』やらの存在は全く信じていないので、そういうオカルトな情報には疎かった。
だが、『ピース教団』の実態を考えれば、どちらかというとそっち側の世界のものになるのかもしれない。
「……テン」
俺が向かいの席にいるテンに声を掛けると、テンはくすっと笑った。
「女の子たちの会話を盗み聞きするのはよくないよ?」
「お前もしっかり聞いてるじゃねえか」
「……でも、確かにそうかもね」テンは真面目な顔になった。「戦うなら、まず相手のことを知る必要があるもんね」
テンは「ごちそうさま!」と言って立ち上がり、「じゃ、買ってくるね!」と、さわやかな笑顔で立ち去っていった。




