147話 5月30日#02〜自由にする強み〜
しばらくの間、ピエール号は何事もなく空の旅を続けていた。
すると、森の木の本数が、目に見えて減り始めた。木と木の間が広くなって、丈の低い草がちらほら生えるようになり、最後には木の間隔が、地平線まで広がる乾燥した大地に点々と生えている程度になった。
それと同時に、そこに住む動物たちやモンスターの姿も丸見えになっていった。草が結構枯れているからか、みんな必死で青い草を探しているように見える。
そんな草食動物の中に、3本角の生えたイグアナみたいな生き物がいた。モンスター動物園で見た覚えがある。
「あれは、名前は忘れたけど……確か目がよくて、敵に強い酸性の唾を正確に飛ばすとか……」
動物園で見た生き物を、実際の野生の姿で見られるというのは、なかなか感慨深いものがある。
ふと隣を見ると、モルガンも同じように、窓の外を眺めている。
じっと見つめていると、モルガンは俺にギロッと睨み返した。
「なぜ我を見ている?」
「……モルガンは、何かしたいことがあるのか?」
「何の話だ?」
「いや、ふと思って」俺はまた窓の外に目を向けた。「『力を取り戻して、まずは何をするんだろう?』って。まず飛行能力が上がるから空を自由に飛びたいのかなとか……」
「そんなこと、貴様には関係ない」
「……それもそうだな」
しばらく静寂があり、今度はモルガンが口を開いた。
「……貴様のやっていることは、我には理解不能だ」
「何のこと?」
「失敗をした人間にほとんど制裁を加えなかったり、多少夜更かししただけで他人の体調を気にしたり……」
モルガンは目を細めた。
「……貴様は他人に甘い」
「……ま。否定しないけど」
俺は肩をすくめた。
「リーダーになるなら、もっと厳しくしたほうがよいと思うが?あのままでは、いつか誰かが貴様の足を引っ張るぞ?」
「……まあ、そうかもな……でも、」
俺はくすっと笑った。
「自由にさせておく強さもあると思うぜ、俺は」
「は……?」
ちらりと見ると、モルガンは目を丸くしていた。
「俺が、軍人じゃなくて闘技士になった理由がわかるか?」
「いや……」
「本当は、軍に入る方が収入も安定していいなとは思ったんだが……やっぱり厳しいルールを守るのは俺の性に合わないなって」
俺は、将来の進路に悩んでいた頃を思い出した。
「結果的に、グラディアトルを選んだから、今みたいな貧乏生活を送ることになったけど、後悔はしていない。だって、」
――自由にしている方が、自分の強みを活かせるから。
「俺、これでも試合で、魔術師以外との戦績はなかなかいいんだぜ?1人でやってるから、連携とかも気にする必要ないし」
ちなみに、学生時代の友人は、それぞれが別の道を歩んでいて、今ではほとんど連絡を取り合っていない。俺は仕事以外で人とわざわざ会うこともなかったし、結局レイたちと出会う前まで、ほとんど誰とも交流していなかった。
そうやって1人でいる中で、1つ思ったことがある。
「人間って、他人がいると自分を制限しちゃうんだなと……他人にいろいろと影響を受けるから、気づくと自分らしさを失ってるんだなって気づいた」
学生時代の俺は、どちらかというと自由奔放な学生だったが、それでも自分に制限をかけていた。それも、不本意な。
グラディアトルになってそこから一度離れたら、いろいろ見えてなかったものが見えてきた。自分の本当に望む生き方が見えてきたのだ。
「みんなも俺と同じように、旅を始めていろいろ考えることもあるだろうけど、もしその中で何かやりたいことが見つかったらそれを応援してやるし、自由にやらせる。俺はその方針を貫く」
俺たちなら人数も少ないから、厳しくルールを作るより、お互いに欠点を補い合う方が、うまくいくだろう。だから、自由にさせておく。困りごとは、みんなで助け合って解決する。それが俺のやり方。
――そういう仲間がいるのも、なかなかいいものだろう?
「……ま、レイはちょっと奔放すぎるけどな」
俺が笑っていると、モルガンが下を見て、ぶつぶつ言っていた。「人間の若造のくせに……」とか何とか言っていた。
カイト君自身は、学生時代の自分は『自由奔放だった』と思っているみたいですが、筆記科目やダンスなどの授業をサボり気味だっただけで、実践科目はわりと真面目に取り組んでいたようです。




