145話 5月29日#04〜真夜中の騒動②〜
〜以下、テンの回想の続き〜
……こんな感じで、レイさんとたわいない|(?)会話を続けていると、僕の目の端で何かが動いたような気がした。
「レイさん、」
「……なにー?」レイさんはあくびをしている。
「あのあたりに何かいそうな気がする」
「……へー、そう……」
レイさん、そういうのあんまり気にしないのかな?ものすごく強いから?
「ちょっと明るくして、よく見たいんだけど」
「わかった……えい」
レイさんの気の抜けた掛け声は――やっぱ、めっちゃかわいいなあ……
レイさんが指さしたところに、小さな火が1つ点いた。火は宙に浮かんだまま、周囲の木々の間を明るく照らし出した。
そして、そこに何かがいた。僕はそれを見て、思わずぎょっと身を引いた。
「む……ムカデ!?」
デカい。めっちゃデカい。人間の首なんか、あの鋭い顎で簡単にちょん切られちゃいそうだ。
しかも、当然のようにピエール号の甲板に上がり込んでくる。その際、カチカチと硬い脚の爪が床板に当たる音がした。
『ひっ!』ピエール号の小さな声が聞こえてきた。『ま、『マンイーター』です!仲間を呼ばれたら面倒です。通り過ぎるまで、静かに待っていましょう!』
――いや、こんなのいなくなるまで待てだなんて……僕は鳥肌が立つのを感じた。
それから『マンイーター』は、甲板の向こう側を乗り越え、地面へ降りようとした。
ほっと胸をなで下ろしていると、
「……テン、」
「は、はい!」僕は何とか平静を保とうと努力した。でないと格好がつかないからね。
「……後ろ」
レイさんが、何かを指さしている。
「……え?」
恐る恐る後ろを振り返ると、そこには……
――2頭目の『マンイーター』の顔があった。
「ひ、ひえっ!!」
どうにか『断末魔の叫び』を上げずには済んだが、たぶん僕たちは命の危機にさらされている。
――どうしよう。どうやってレイさんを守ろう?
『マンイーター』は、僕たちの隙を狙っている。
「……えい」
レイさんの掛け声が聞こえた時、『マンイーター』の体がふわりと宙に浮いた。
そしてレイさんは、魔法で『マンイーター』を、近くの地面に強く叩きつけた。
「キシイイィィィィ!!!」
突然、『マンイーター』が何かをこするような大きな音を出した。
そして、あちこちから、同じような音が聞こえてきた。
『ちょっ、レイさん!何やってるんですか!?』
ピエール号が泣きそうな声でそう言った。
「あれ?静かにしてたはずなんだけどな……?」
――レイさん……いい!勘違いしているところが、すごくいい!
――けど、僕たちはさらに大きな危険のど真ん中にいた。
僕たちは、数多くの大ムカデに取り囲まれていた。ひええええ!!
僕は耐えきれずに、懐の例の箱の中からとある大きな容器を取り出した。
「『虫ころジェット』噴射!!」
超改良型のスプレー容器から勢いよく噴出した『虫ころジェット』は、付近にいた10頭くらいの『マンイーター』に降りかかり、船の上から退散させた。
でも、全部には届かない。まだ20頭近くがピエール号の周りに陣取っている。
「まだいるの!?」
すると、レイさんが動いた。大剣を手に持ち、宙に浮かびながら、魔法の名前を宣言する。
「『フレアスラッシュ』!!」
炎の刃が全方位へ飛んでいき、大ムカデたちの体を斬り刻んだ。あたりに体液が飛び散り、『マンイーター』の胴体がドサドサとピエール号の上に落ちてきた。
不幸中の幸いで、次の『マンイーター』の援軍は出てこなかった。でも、甲板は『マンイーター』の体液と死体で、ベチョベチョになっていた。
「えっと……これは掃除が大変というか……」
僕のつぶやきを聞いたレイさんがひとこと、
「……燃やすか」
『え?ちょっと待ってください!』ピエール号が慌てている。『それは、ワタクシが……うぎゃああああああああ!!!』
――レイさんは、本当に燃やした。『クリムゾンブレス』で大ムカデの死体を吹っ飛ばし、甲板の床に広がる体液に火がどんどん移っていく。
その様子を見つめていたレイさんは、小さく「あ」とつぶやき、僕の方を見た。
「見つかると面倒だ。火を全部消して」
――見つかるって、カイト君に?
別にやってもいいけど、もう手遅れのような……あ、ほら。カイト君が出てきて、
「れぇぇええええぇぇぇいいいい!!」
大声で君の名前を叫んでるよ?
――あ。てかこれ、僕も怒られるやつだ。
〜テンの回想終了〜




