126話 5月25日#12
「……戦うのはいいとして、『今夜』って、またずいぶん急だよな」
食事を終えて、俺たちは海辺でぼーっとしていた。ここに来た理由は特になく、ただ何となく海風に当たりたいと俺が言ったからだった。
「何か意味があるのかな?」テンは空を見上げた。「……あ。今日は満月なんだ」
『ちょうど見えてますね〜!』ピエール33世はピンク色に光っていた。『ワタクシ、満月を見るとテンション上がっちゃうんです!』
「それって、『月の神』だからじゃないの?」
リアがそう言った後、ソラがボソリとつぶやいた。
「おとめ座の植物……満月の夜に開花する……」
「「「え……」」」
俺とテンとリアが、同じリアクションをとった。
「あれ、花とかあるやつだったのか?」
「うん……」ソラは満月を見つめていた。「花が咲いている間、ソフィアはもっと強くなる……」
――何それ?
「それなのに、レイさんが圧勝するって思ってるの?」
テンは不思議そうな顔をした。
「そうみたい……」
「……まあ確かに、ソフィアの言うことも納得いくけどさ」俺も、満月の浮かぶ空を見上げた。「レイって、必要以上の火力とか出して、俺たちまで危険な目に遭わせるし」
――ビルの倒壊とか、カジノの火事とか。前科はちゃんとある。
「それって、何も考えてないってことだよな?」
「でも僕は、戦いのセンスがあると思ってるよ」と、テンは言った。「でなきゃ、あの『ゾンビ生成ドラゴン』に勝てなかったと思うから」
――確かに。『その攻撃を使うべき時に使える』レイの力は評価すべきだろう。
「……うーん」レイは首を傾げた。「みんないろんなこと言ってるが、私は普通にしてるだけだぞ?」
「お前の『普通』が普通じゃないって話をしてんだよ」俺は呆れてしまった。
『とにかく、ワタクシは今夜の戦いを観るのが楽しみです!……レイさん、頑張ってくださいね!』
「おう!」レイは拳を突き上げた。「気分は『闘技士』だな!」
また、妙にノリのいいこと言って……と苦笑いしていると、ふとソラが顔を上げた。
「念話が来た……あっちの方でやるって……」
ソラはそう言って、左の方を指さした。
「場所わかる……ついてきて……」
そう言って、ソラは海岸に沿って走り始めた。それを見た俺たちも、ソラの後を追って走り始める。
――が、俺はすぐに違和感を覚えた。
「ソラ……」俺はある考えを思い浮かべていた。「もしかして、目的地って……」
「……あ、着いた」ソラは指をさした。「このあたりの海の上……ここが、試合の場所……」
見ると、海に浮かぶ小さな島があり、その島には太い植物の蔓が何十本も生えている。それぞれが複雑に絡みつき、張り出し、そこに人が数人座れるくらいの空間を作り出していた。
蔓には、棘以外に花も咲いていた。鮮やかな黄色の小さい花が、ほぼ等間隔に咲いていた。
しかし、その花からキラキラと粉のようなものが噴き出ている。何だか嫌な予感がする。
ゴツゴツした岩の海岸には、ソフィアがいた。長い髪が海風に乗ってさらりと吹き流され、彼女の美しさを際立たせている。
「このあたりの海には、誰も来ない」と、ソフィアは言った。「待たせたな、レイ。お互い、正々堂々と戦おう」
「……ほーい」
ソフィアの凄みのある言い方と、レイの適当な返事が何とも言えない組み合わせだった。俺は不安を覚えながら、2人から離れたところへ向かった。




