118話 5月25日#04
蔓が一斉に引っ込んでいき、講堂は元どおりの姿を取り戻した――ソフィアがあれだけの攻撃をしていたのに、壁や床や天井には傷一つついてなかった。
ソフィアは壇上から下り、入り口付近でぼーっと突っ立ってる俺たちのところまでスタスタとやって来た。
「……治してやれ」
「え?僕?」テンは目を瞬かせた。
「そうだ」ソフィアはちらりとモルガンの様子を見た。「『みずがめ座の石』の力で治せるはずだ……私は忙しいので、あとは任せた」
それだけ言って、ソフィアは講堂から出ていってしまった。
「……と言われても、」テンは戸惑っていた。「石の魔法って、どうやって使うの?前は勝手に発動したみたいだけど」
『えっとですね、』ピエール33世がオレンジ色に光った。『手品の念力と一緒です!『治れ〜!』って、心の中でパワーを送るんです!』
「手品は『念力』使わないんだけど」
テンは苦笑いしながら、モルガンに少し近寄った。
そして床に膝をついて、小さな声で何事かつぶやいた。
すると、モルガンの体から流れ出た血が止まり、みるみるうちに切り傷も擦り傷も消えてなくなった。はがれていた鱗も元のように皮膚にくっついた。
それから数秒たつと、モルガンの体から鱗と尾が消えた。モルガンはゆっくり起き上がると、テンを睨みつけた。
「余計なことを……」
「素直に『ありがとう』って言えばいいんだよ」テンはゆっくり立ち上がり、モルガンに手を差し出した。
モルガンはそれを無視し、自分の力で立ち上がった。
「……じろじろ見るな」
俺たちがじっと自分を見ていることに気づき、モルガンは俺たちの方にも鋭い視線を向けた。
「貴様らにもう用はない。追いかけてくるんじゃないぞ」
モルガンは、壁に立てかけてあった日傘を取ると、そのまま外へ出て、どこかへ飛んでいってしまった。
「『追いかけるな』と言われると、追いかけたくなるよねえ」
「でも、今はそっとしておきましょ」
「……そうだね……」
「……じゃ、そろそろ昼飯食うか」
『昨日買った具材でパエリア作りましょー!』
「「「「「おー!!!!!」」」」」
俺たちは掛け声をかけながら、学校を後にした。
ピエール33世は空き地を見つけると、そこに『ピエールキッチン』を広げた。
『さあ!皆さん、手を洗ってくださ〜い!』
「……俺たちも作るのか」
俺たちの準備が整うと、ピエールキッチンは指示を始めた。
『カイトさんは米を洗ってくださ〜い!力を入れないように気をつけてくださいね!』
「……あー、はい」俺は素直に返事しておいた。
『レイさんは調味料の用意を、テンさんは野菜や烏賊・蛸を食べやすい大きさに切ってください。ソラさんは貝を洗って、リアさんは……』
しばらく間があった。
『……パセリでも、ちぎりましょうか?』
「オーケー♪任せて♪」
リアは上機嫌に、パセリが入っている皿に向かった。
『ワタクシは、手に入れた魚をおろします!』
「……え?」
見ると、台の中央にまな板と包丁が現れ、ひとりでに動き出して、まな板の上の魚の鱗を取っていた。
「「「「「………………」」」」」
――どうやら、『神の力を使って一瞬で魚をおろす』ということはしないらしい。というか、俺の予想ではできないんだと思う。
「……神様って、意外と不便なんだね……」と、テンはつぶやいた。




