103話 5月23日#14
それから、俺たちはブレーカーを探して、あちこちの部屋の中を見て回った。
――しかし、それらしいものは見つからなかった。
そしてとうとう、廊下の一番奥にある部屋にたどり着いた。部屋の中央に台座があるだけの、簡素な部屋だった。
そして、台座の上にあったものは……
「……ボタン……」
赤くて丸いボタン。説明書きはないが、絶対に押してはならない雰囲気がある。
「……これは無視しましょ」
「そうだね」
俺たちが部屋から出ようとしたその時、
――レイがボタンを押した。
『「「「「え……」」」」』
鉄の扉が、大きな「バンッ!」という音を立てて、ひとりでに閉まった。
それと同時に、大きなサイレンの音が鳴り響いた。
『緊急事態ハッセイ!緊急事態ハッセイ!』
「……何これ」
「『何これ』じゃないわよ!アリエスのバカーーー!!!」
部屋の天井に、赤く光るライトがついていた。サイレンと同時に作動したものだ。
部屋全体を照らすくらいには明るかったが、手元がよく見えるほどではなかった。
「……やっぱり、開かない……」ソラが渾身の力を込めて入り口の扉を開けようとしていた。
「どうしよう?」
「この部屋、台座以外に何もない気がするけど、まだどこかに仕掛けが……?」
テンがそう言って1歩歩くと、足元から「ピチャッ」という音が聞こえてきた。
「……水?」
部屋に入ってきたときはなかった水が、足元を濡らしていた。
『まさか、アレじゃないですか?』ピエール33世が赤く光った。『水がどんどん溜まって、最後は溺れ……』
「そんなの、いやー!!」
「……僕も、せっかく乾いた一張羅のコートを、またびしょびしょにしたくない」
――余裕あるなー。
「とにかく、この部屋から出る方法を探さなきゃ」
見たところ、この部屋には赤く光るライトと、中央に鎮座するボタン付きの台座ぐらいしかない。
あたりをきょろきょろしているうちに、水の量がだんだん増えてきて、あっという間に足首近くまで溜まってきた。
「きっとこのライトに仕掛けがあるわ!」
リアはそう叫び、赤いライトに向かって矢を放った。
――結果、赤い光とサイレンは消えたが、相変わらず扉は開かないし、水かさはどんどん増えるし、ついでに真っ暗になった。
「え……」
その時、パッと光が灯った。空中に、テンの生首が浮いている。
「……きゃああ!!」
「……あ。思ったより反応がいいね!」
テンは『電池式小型ライト』を、光が自分の顔の下から当たるようにして持っていた。
「やっぱりこういう時は、ユーモアがなくちゃ!」
「……今は、そういう幼稚なユーモアは要らん」
「それはさておき」テンは、もう1本のライトを俺に渡しながら言った。「この部屋、他に何かある?壁に仕掛けがあるとか?」
「…………ない!何もないぞ!」
水が、膝に届こうとしている。
「こ、これ以上水が増えたら、僕のコートが……!」
「あんた、自分の命は気にならないの!?」
「あたしはもう、膝上まで水に浸かってる……」
『どうしたらいいんでしょう!?ワタクシ、神なのに、何もできない役立たずでごめんなさい!!』
「あ!水が増えたら、扉が耐えられなくなって開くとか……」
「あんな頑丈な扉が!?」
「……たぶん、その頃にはあたしたち……」
水が、腿の真ん中くらいまで上がってきた。
「もー!死にたくない!!誰か扉を開けてーー!!!」
――と、リアが叫んだその瞬間。
「……めんどくさいなあ……」
レイはそう言って、また赤いボタンを押した。
『「「「「え……」」」」』
――ガチャン。
鍵が外れる音が聞こえた。
「……マジで?」
扉を押してみたら、ちゃんと開いた。
水が勢いよく廊下へ流れ出て、俺たちは押し流されるようにして廊下へ出ていった。
『「「「「………………」」」」』
「……ただ、あれを押せばよかったってこと……?」リアは、俺の肩の上で腹ばいになってため息をついた。
「レイさん、君……いつから気づいてた……?」
テンがそう訊ねると、レイは不思議そうな顔をしていた。
「『気づく』も何も、『ボタンを押すと閉まる扉』なら、『もう一度ボタンを押せば開く』んじゃないのか?」
「……だったら、さっさとボタンを押してくれれば……」
「……そんなに、あの部屋にいるのがイヤだったのか?」
『「「「「………………」」」」』




