第二章 泰三の話-9
※本作は 文芸社より2026年7月に書籍化 されます。
応援してくださる皆さまのおかげです。ありがとうございます。
30歳のとき、僕の人生は音を立てて崩れた。
母のくも膜下出血による介護、うつ、解雇、転職失敗。
どれかひとつでも重いのに、一度に全部が襲ってきた。
それでも――
毎日「1日20分だけ」書くことを続けた。
この作品は、
人生のどん底に落ちた男が、
どうやってもう一度立ち上がったのかという、
“再生の記録” です。
読んでくださるあなたの人生が、
少しでも軽くなるなら、それ以上の幸せはありません。
泰三はゲームが好きだ。それは小さな頃からずっとだ。ただ、スポーツはそれ以上に好きだと思う。泰三は、現在、大学のフットサルサークルに所属している。中学、高校時代にサッカー部に入部していたわけではない。中学時代は卓球部で、高校時代は帰宅部だった。大学生になった時に、「何かを変えたい」一心で、フットサルサークルに思い切って入部したのだった。週に一度ほどであるが、毎週欠かさず楽しくプレーしている。そこまで上手くはないし、体力もある方ではない。それでも泰三にとって運動というものは、仮想世界のゲーム空間をはるかに凌ぐ刺激を与えてくれるものだった。都会ではスポーツをやるのにもお金がかかってくるだろう。気軽にできるものではない。田舎であれば、そこらのグラウンドで、人さえ集めればできるのだ。お金の心配をして、好きなことをやれないのは、なんと空しい人生だろう。都会に生きていても田舎に生きていてもそれは同じことだ。「好きなことで生きていきたい」そんなことを漠然ながらも考え、大学生のうちに、どのように生きるべきかを、本気で考える必要があるなと泰三は感じた。
さて、109にも、土産話に一応は行ってみることにした。109の正面ゲートをくぐり抜け、案内看板を見る。地上8階地下2階の大きな商業ビルだ。泰三の地元にはこんな高いビルは、無駄に高い県庁くらいのものだろうか。109は予想はしていたのだが、女の子向けの服やバッグなどを売っている店舗が多い。一部、男物の服や靴も置かれていたが、わざわざ109で買うものでもないだろう。帰りの荷物が増えるだけだ。一応カフェやレストランもあり、やはり大勢の人で賑わっていた。特に若い年齢の女の子やカップルが多いイメージだ。泰三のように、生まれてから、彼女なしの独身男性が来るには場違いに感じてしまった。三〇分近くはなんとなく店内を見て回っていたが、目ぼしいものは、見つかるはずもなかった。彼女ができたら、「109に行きたい」そう言ってくる日が来るのだろうか。未来の彼女とのデートを夢見て、そそくさと109をあとにする少しみじめな泰三だった。
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