まあ、このくらいなら
これは、スカイたちがいるサーバーとは、別のどこかで起きた物語。どこにでもあり得る、そして誰にでも起こり得る話。
最初はただの雑談だった。
「お疲れ様〜」
「今日も大変だったね」
僕はギルマスとして、当たり前に声をかけていただけ。
ただそれだけのはずだった。
彼女は、毎日来た。
「ちょっと相談いい?」
そのちょっとは、日に日に長くなっていった。
最初はゲームの話。
次は人間関係。
そのうち、リアルの悩み。
気づけば、ログインすると彼女がいるのが当たり前になっていた。
「やっぱりあなたに出会えてよかった」
その言葉に、違和感はあった。
でも、否定しなかった。
否定する理由も、勇気もなかった。
「好き…とは言いません」
その一文を見たとき、指が、ほんの一瞬だけ止まった。本当はわかっていた。
ここで止めるべきだった。
でも、こう思ってしまった。
まあ、このくらいなら大丈夫だろ。
それが分岐点だった。
彼女のメッセージは、さらに増えた。
「なんで今日は返信遅いの?」
「誰と話してたの?」
「私、何かした?」
ギルドチャットでも距離が近くなり、
周りがざわつき始める。
ある日、誰かが冗談で言った。
「○○って、もう彼女なんじゃないの?w」
彼女は、間髪入れずに返した。
「彼女でーす♡」
チャットが、一瞬止まった。
否定しようとした。
でも、空気が怖かった。
軽く流せばいい。
そう思った。
笑ってごまかした。
否定する勇気がなかった。
その一言が、すべてを決定づけた。
その日から、彼女の中で関係は確定になった。
「なんで他の女と話してるの?」
「私のことどう思ってるの?」
「奥さんいるの知ってるけど、それでも…」
現実とゲームの境界は、完全に崩れていた。
やがて彼女は壊れた。ギルドVCで泣き出し、僕の名前を出し、関係を事実として語り始める。
空気は最悪になった。気まずくなるメンバー、離れていく古参、噂が広がるサーバー。
そして僕は、何もしていないのに全ての中心にいた。最後に残ったのは、疲労と、後悔と、崩れたコミュニティ。
ログアウト画面で、僕は思った。
「最初に止めておけばよかった」




