第四十話 あなたのおかげです
大会の喧騒が少しずつ落ち着き始めた頃。
フローライトの拠点には、穏やかであたたかな空気が流れていた。
中心にいるのは、五位入賞という快挙を成し遂げたリデル。
【烈火】「五位だぞ五位!スケールでけぇなぁ」
【みぃ子】「ほんとにすごいです……!」
【ゆず】「リデルさんじゃなきゃ、あそこまでは行けなかったよ」
【ココア】「うんうん、誇っていい結果だよ!」
リデルは少し照れたように微笑みながら、ゆっくりと口を開いた。
【リデル】「今回ね……仲間の大切さを、あらためて学んだの。人って、一人じゃなくて……支え合って生きてるんだって」
【烈火】「急に人生語るじゃん」
軽口を叩く烈火に、ココアとゆずがくすっと笑う。
【みぃ子】「でも、本当ですよね」
【ゆず】「私たちじゃ、あそこまでは行けなかった」
【ココア】「リデルさんだから、行けたんだよ」
だが、リデルは首を横に振った。
【リデル】「ううん……私ひとりじゃ無理だった。みんながいたから、行けたんだよ」
その言葉に、場の空気がやさしく和らぐ。
その時。
【そる】「おいおい、ケルベロスの牙が主人公ムーブかましてるぞ!」
一瞬、沈黙。
【ココア】「何〜!?主役は私たちフローライトよ!行くわよ、そる!」
【そる】「がってん姐さん!!」
二人は勢いよく全体チャットを開いた。
【ココア】「フローライト、週末から本気出すわよー!!」
【そる】「主人公は譲らねぇからなぁ!!」
【マルメン】「いや、主役は俺たち斬々抜断!」
【ペイン】「いや、俺たちrebellionだ」
【シャイン】「いつにも増してカオスってんなぁ」
拠点の片隅で、その様子を見ていた面々は――
【White】「やれやれ……相変わらずだな、あの二人は」
【むー】「ま、それがいいんですけどね」
【ハルト】「間違いないですね」
Rainは肩を回し、鋭い視線を向ける。
【Rain】「週末から……バトル再開ですね」
【らいおん】「おうとも!俺たちの得意舞台は戦闘だもんな!」
その空気を、ぱっと明るくする声が響いた。
【料理長】「まずは腹ごしらえだ!」
【REBORN】「そうそう、祝勝会だよ祝勝会!」
笑い声が広がる。
勝敗よりも、順位よりも。
この場所には、帰ってくる理由があった。
フローライトは今日も、変わらず賑やかで、
そして、確かな絆で結ばれていた。
一方、DARK KING。
黒王、カノン、BROS、ザン・シャオ、ケリー、スカイ、そしてオニッシュ。
全員が拠点に集まっていた。
張りつめていた大会の空気は消え、そこにあるのは静かな余韻と、確かな達成感。
【ケリー】「オニッシュちゃん、おめでとう!」
【ザン・シャオ】「ほんと、みんなで頑張った甲斐があったな」
オニッシュは少し照れたように頷き、装備に手をかけた。
【オニッシュ】「戦闘装備、戻してくるね」
だが、その背中を黒王の声が止める。
【黒王】「やめとけ」
オニッシュが振り返る。
【黒王】「お前は、顔を出してた方が似合ってる」
一瞬、言葉に詰まる。
だが、オニッシュはゆっくりと深呼吸し、そして語り始めた。
【オニッシュ】「……今回、箱庭コンテストに挑戦して」
誰も口を挟まない。
全員が、ただ静かに耳を傾けていた。
【オニッシュ】「戦う理由とか、居場所とか……いろんなこと、考えた」
少し間を置き、彼女は続ける。
【オニッシュ】「逃げるために、この名前を使ってた気がする」
そして――
メニューを開き、名前の変更を実行する。
《オニッシュ → シオン》
それは、本名。
もう配信で知れ渡っている名前。
今さら隠す必要もない、素の自分。
【カノン】「いいじゃないか」
【BROS】「似合ってる」
【ケリー】「その方が、あなたらしいよ」
シオンは小さく微笑み、皆を見渡した。
【シオン】「……私、決めたの」
シオンはある目標を宣言した。
そして、その覚悟ははっきりと伝わった。
【スカイ】「全力で応援する!」
【BROS】「シオンなら大丈夫だ」
【ザン・シャオ】「背中は任せろ」
【ケリー】「あなたなら、できるよ!」
最後に、黒王が低く言う。
【黒王】「……殻を破る気になったか」
その言葉に、シオンの胸が静かに震えた。
思い出すのは、個人ランク戦テストマッチの日。
あの日の、あの言葉。
ーーーー
【黒王】「お前が 篝火紫苑 だから、か?」
黒王は一歩踏み込む。
全て見抜かれている。
一つ一つの言葉に、まるで胸を撃ち抜かれたようだった。
【オニッシュ】「あんたには関係ないだろ」
【黒王】「見てらんねぇんだよ。滑稽すぎて」
剣が、音もなく構えられる。
【黒王】「アホが。自分の殻、破れ」
黒王の剣が、容赦なくオニッシュを斬り伏せる。
【黒王】「殻から逃げてるうちは、何やっても二流だ」
ーーーー
シオンは、今の仲間たちを見渡し、まっすぐ黒王を見た。
【シオン】「……あなたのおかげです」
黒王は何も言わない。
ただ、わずかに口角を上げただけだった。
シオンはもう、殻の中にはいない。
逃げるための名前も、隠すための仮面も、必要なかった。
ここが、彼女の居場所。
そしてこれからは、自分の足で進む番だった。
ーーー 第七章 箱庭コンテストの物語 完 ーーー




