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サンドボックスウォーズ  作者: 黒瀬雷牙
第七章 箱庭コンテストの物語

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第三十八話 居場所と牢獄

 オニッシュの結果発表を前にして、DARK KINGのメンバーは、静かな熱気が満ちていた。


 黒王。

 カノン。

 BROS。

 ザン・シャオ。

 ケリー。

 そして、スカイ。


 彼らは皆、同じ方向を見つめていた。

 スクリーンの向こうにいる、たった一人の仲間を。


【黒王】「……あいつなら、やれる」


 短く、それでも確信に満ちた声。


【カノン】「予選から今日まで、どれだけ潜ったと思ってるの」

【BROS】「奈落探索の難易度、エグすぎだったっしょ」

【ザン・シャオ】「普通なら、途中で折れる」

【ケリー】「でも、オニッシュは折れなかった」

【スカイ】「……だから、信じてる」


 予選から今日まで続いた、過酷な奈落探索。

 敵の強さ、時間制限、精神的な消耗。

 そのすべてを乗り越えてきたのは、オニッシュだった。


 誰よりも、無理をして。

 誰よりも、耐えて。


 それでも、彼女は前に進み続けた。


 だが。


 その裏側には、紫苑の現実があった。

 彼女は今も、琉韻によって配信を強いられている。


 少し前、琉韻はSNSで、SBWの広告を見かけた。


「箱庭コンテスト? いいじゃん」


 軽い口調。まるで、ゲームのイベントの一つを語るように。


「視聴も取れそうだしさ。課金で殴れば、楽勝でしょ?」


 その言葉と同時に、通知音が鳴る。


 クレジットカード決済:100,000円。


 紫苑のアカウントに、大量の課金アイテムが流れ込んでくる。


「ほら。これで箱庭も盛れるでしょ?」


 そして、耳元に囁くように、低い声。


「この分は、ちゃんと稼いで返しなさい」


 紫苑は、何も言えなかった。


 画面の向こうの琉韻の目には、優しさも、期待も、心配も、一切の光が宿っていなかった。


 あるのはただ、使える存在を見る、冷たい視線だけ。


 勝たなければいけない。

 結果を出さなければいけない。

 視聴数を、稼がなければいけない。


 それが、紫苑の日常だった。


 そして今、そのすべてを背負ったまま、オニッシュの名前が、スクリーンに映ろうとしていた。


 スクリーンが、静かに切り替わった。


 32サーバー

 予選5位通過


『オニッシュ 9,912ポイント』


 一瞬の沈黙。

 次の瞬間会場が、爆発した。


【BROS】「うおおおおお!!」

【シャイン】「9,900超え!?」

【マルメン】「DARK KING、庭でも強すぎだろ!!」


 歓声が、天井を揺らす。


 同時に、配信コメントも滝のように流れた。


「神すぎる!!」

「紫苑ちゃん最高!」

「この点数で3位ってどうなってんの!?」

「てか32サーバー魔境すぎ!」


 リアルの会場も、画面の向こうの視聴者も、同じ熱に包まれていた。


 だが、オニッシュは声を出さなかった。

 配信中だから、ではない。出せなかったのだ。


 イヤーモニター越しに、()()を感じていたから。


 カメラの向こう。

 琉韻の視線。


 氷の刃のように、冷たく、鋭い目。


 拍手も、歓声も、称賛も。

 すべてを切り裂くような、無言の圧。


 もっと、稼げ。

 まだ、足りない。


 言葉にしなくても、

 その視線だけで、十分すぎるほど伝わっていた。


 それでも。

 結果は、結果だ。


 9,912ポイント。三位。

 トップには届かなかったが、誰もが認める、圧倒的な高得点。


 そして、ベスト5の名が、スクリーンに並ぶ。


 アメリア

 メリッサ

 アリス

 リデル

 オニッシュ


【そる】「マジで全員32サーバーじゃねーか…」

【すなっち】「32鯖は庭でも魔境…ってか」


 五人が、表彰台へと呼ばれた。


 スポットライトが当たり、

 再び、大きな歓声が巻き起こる。


【スカイ】「おめでとう!!」

【ザン・シャオ】「最高の箱庭だった!!」


 拍手の嵐。祝福の声。


【オニッシュ】「みんな、ありがとう!!」


 オニッシュは、ゆっくりと一歩踏み出した。


 眩しいほどの光の中で、拍手を浴びながら。

 その胸の奥にあるのは、誇りと、重さと、そして消えない緊張。


 表彰台に立つ五人。


 だが、オニッシュの背中には、勝者とは別の重みが、確かに乗っていた。


 配信が、終了した。


 画面が暗転し、コメントの流れも、歓声も、すべてが途切れる。静寂の中で、琉韻はスマホを操作しながら、淡々と言った。


「まぁ……結果はどうでもいいけど」


 視線を上げることなく、続ける。


「視聴者、ちゃんと取れたわね。投げ銭も……そこそこ」


 その声には、感情がなかった。

 称賛も、労いも、達成感すらない。


 ただの数字の確認。


 篝火琉韻。

 ヤケ酒45のセンター。

 国民的トップアイドル。


 テレビ、CM、ライブ、SNS。

 常に話題の中心にいる存在。


 その妹である紫苑――オニッシュの配信は、たとえただの中学生であっても、圧倒的な視聴者数を叩き出す。


 話題性。炎上力。

 そして、姉という圧倒的なブランド。


 視聴者も、投げ銭も、桁が違った。


 だが、その金が紫苑の元に届くことはない。

 投げ銭も、広告収益も、すべては管理という名のもとに回収される。


 紫苑の手元に残るのは、次の配信の予定と、もっと稼ぎなさいという無言の圧だけ。


 琉韻は、画面を閉じて、ふっと息を吐く。


「……次は、もっと伸ばせるわね」


 その言葉は、未来を見据えたものだった。

 だが、そこに()の存在はなかった。


 あったのは、数字と、利益と……

 利用価値だけだった。

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