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サンドボックスウォーズ  作者: 黒瀬雷牙
第七章 箱庭コンテストの物語

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第三十六話 アメリアとメリッサ

 ついに32サーバーの番が来た。

 空気が、一段階重くなる。


 予選1位通過。

 アメリア。


 その名前が表示された瞬間、周囲の視線が自然と彼女に集まった。


 だが、アメリアは肩の力を抜いたまま、いつも通りの表情だった。


 メリッサ、さつき、catは、ただ無言で彼女のそばに立つ。言葉はいらなかった。寄り添うだけで、十分だった。


 一方で、ミロクとももは、モニターをじっと見つめている。


 発表までの数十秒が、異様に長く感じられた。


 ロビーの雑音が遠のく。

 自分の鼓動だけが、やけに大きく聞こえる。


 そのときだった。


 アメリアが、ふっと振り返った。

 そして、ハッとするほど明るい笑顔で言った。


【アメリア】「どんな結果でもさ、楽しかったから。最高の箱庭だよ」


 その声は、緊張を吹き飛ばすように、やさしくて、まっすぐだった。


 メリッサは、その横顔を見つめながら、ふと気づく。


 ――あぁ。


 こういうところだ。


 アメリアが1()()なのは。


 結果を背負いながらも、

 それでも楽しさを忘れない。


 不安よりも、誇りを先に出せる。


 私には、ないものを持っている。


 その瞬間――

 スクリーンが、更新された。


 32サーバー

 予選1位通過


『アメリア 10,055ポイント』


 一瞬、世界が止まった。


【シャイン】「……は?」

【そる】「1万……?」

【たっちゃんパパ】「ちょ、桁……」


 ざわめきが、爆発的に広がる。


 これまでの最高得点は、30サーバーのNoirによる9,120。


 それを1,000点近く上回る数字。


 10,055。


 五桁の壁を、初めて突破した。


 スクリーンには、アメリアの箱庭が映し出される。


 白い雪に包まれた街並み。だが、そこにあるのは冷たさではなく、やさしい温もりだった。


 街路を照らす橙色のランタン。

 湯気の立つ露店。屋根の上にはふわりと積もる雪。


 中央広場には、大きな暖炉と温泉の噴水。

 湯気が空へ溶け、雪空を淡く染めていた。


 冷たい冬景色の中に、確かに温かさが息づいている。


 寒さを忘れるほどの光と色彩。

 人の気配を感じさせる配置。

 見る者の心まで、じんわりと温めるような空間。


 緻密で、美しく、そして「冬なのに、あたたかい」と自然に感じさせる箱庭だった。


【マルメン】「……これは、文句なしだな」

【金糸雀】「完成度が、別次元ですね……」


 誰もが、納得するしかなかった。

 メリッサは、そっと息を吐く。


 ――やっぱり。アメリアは、すごい。

 そして、彼女は。その中心で、ただ少し照れたように笑っていた。


【アメリア】「……あはは、やったね」


 その笑顔は、誰よりも誇らしくて、誰よりも楽しそうだった。


 メリッサの耳には、もう何も届いていなかった。


 ロビーのざわめきも。

 仲間たちの息遣いも。

 司会の声すらも。


 結果を見る前に、彼女は理解してしまったから。


 アメリアには、勝てない。


 誰よりも近くで見てきた。

 誰よりも、その箱庭の完成度を知っている。


 自分の作品も、全力だった。

 誇れる出来だった。


 それでも、あの輝きには、届かない。

 スクリーンが、静かに更新される。


 32サーバー 予選2位通過


『メリッサ 10,023ポイント』


 一瞬の静寂。


 次の瞬間――

 会場が、爆発した。


「うおおおおお!!」

「一万超え、二人目!?」

「スカーレット強すぎだろ!!」


【シャイン】「1位と2位が、両方五桁……」

【マルメン】「32サーバー、別格すぎる……」


 観客席から、声が飛ぶ。


「スカーレット最強!」

「ワン・ツー決めてるじゃん!」

「これもう優勝だろ!」


 仲間たちも、我を忘れて叫んでいた。


【さつき】「やったあああ!!」

【cat】「メリッサさんも一万超えです!!」

【ミロク】「化け物しかいねぇ……!」


 だが、その中心に立つメリッサは。

 ただ、立ち尽くしていた。


 視界が滲む。喉が、詰まる。


 一万越え。


 それは、紛れもない快挙。

 誰もが羨む、頂点の数字。


 それなのに。


 アメリアには、届かなかった。

 その事実だけが、胸を締めつける。


 スカーレットとしての、ワン・ツー。

 最強と称えられる誇り。

 それでも、消えない悔しさ。


 すべての感情が、胸の奥で絡み合っていた。


 気づけば、涙が頬を伝っていた。


【メリッサ】「……っ……」


 泣いているのに。

 笑っているのに。

 誇らしいのに。


 苦しい。


 その全部が、同時に存在していた。


 それでも。


 メリッサは、顔を上げた。


 スクリーンに映る、アメリアの名前を見つめて。


 小さく、呟く。


【メリッサ】「……やっぱり、すごいですね」


 その声は、震えながらも。

 確かな、尊敬の色を帯びていた。


 歓声が、少しずつ落ち着いていく。


 仲間たちに囲まれ、祝福されながらも。

 メリッサは、まだ涙の跡が残る顔で、スクリーンを見つめていた。


 そこにそっと、隣に立つ影。

 アメリアだった。


【アメリア】「……おめでとう、メリッサ」


 柔らかくて、いつも通りの声。

 それだけなのに、胸の奥が、またじんわりと熱くなる。


【メリッサ】「……ありがとうございます」


 少しだけ、間を置いて。

 メリッサは、ゆっくりと息を吸い込んだ。


【メリッサ】「……やっぱり」


 視線を落とし、静かに続ける。


【メリッサ】「全てにおいて……私は、アメリアには届きませんでした」


 悔しさも。

 認めたくない気持ちも。

 でもそれ以上に、事実だった。

 それでも、メリッサは顔を上げる。


【メリッサ】「だから……」


 少し照れたように、でも真っ直ぐに。


【メリッサ】「これからも……私の、最高の友達でいてください」


 一瞬の沈黙。


 そして――

 アメリアは、きょとんとした顔で首を傾げた。


【アメリア】「……いきなりどうしたのよ」


 すぐに、いつもの笑顔になる。


【アメリア】「当たり前じゃない」


 その一言は、軽くて。

 でも、何よりも強くて。


 メリッサの胸に、まっすぐ届いた。


【メリッサ】「……ふふ」


 涙の跡が残るまま、メリッサは笑った。


 勝ち負けじゃない。

 順位でも、スコアでもない。


 それでも、確かにここにある絆。


 だが、まだ終わらない。

 後に続くアリス、リデル、オニッシュの3人は、まだ諦めてはいない。

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