第三十五話 9,000の壁
30サーバーの発表は、まだ続いていた。
予選2位通過。
『ちゃんるな 7,342ポイント』
続く予選3位。
『ローゼン 7,118ポイント』
スコアはいずれも、7,000ポイント台。
箱庭の完成度は悪くない。だが、先ほどのWhiteほどのインパクトは感じられなかった。
【マルメン】「……30サーバーも、こんなもんか」
【金糸雀】「そうですね。上位はWhiteさんが頭一つ抜けている印象です」
ロビーの空気が、わずかに緩む。
だが、次の表示でその空気は一変した。
30サーバー、予選4位通過。
『Noir 9,120ポイント』
一瞬、静寂。
そして次の瞬間、ざわめきがロビーを包んだ。
【シャイン】「……え?」
【そる】「9,000……?」
【たっちゃんパパ】「桁、間違ってないよな?」
【リオン】「いや桁間違ってたら1,000もないよ!?」
ランキングボードが更新される。
1位 Noir 9,120
Whiteの8,755を、はっきりと上回る数字。
トップが、再び入れ替わった。スクリーンに映し出された箱庭は、漆黒と金を基調とした荘厳な城郭都市。
夜空に浮かぶ大きな月。
黒い城壁と雪景色が、静かに街を包み込んでいた。
だが、城の窓には温かな光が灯り、通りには焚き火とランタンが並ぶ。
影は深く、静寂は支配している。
それでもこの街には、凍えぬぬくもりがあった。
【ハルト】「……これは、別格だな」
【シャイン】「30サーバー、隠し玉がいましたね」
先ほどまでの余裕は、完全に消えていた。
9,120。
それは、今大会で初めて現れた9,000の壁。
そして、まだ32サーバーの番は来ていない。
ロビーに、再び緊張が戻る。
そして、そのスコアは。
誰もが、息を詰めてスクリーンを見上げていた。
30サーバーの発表は、まだ終わっていなかった。
予選5位通過。
『Aster 7,880ポイント』
8,000には届かなかったものの、7,800台後半という堅実なスコア。
箱庭は、緑と木材を基調とした自然都市。
滝の流れる中央広場と、段差を活かした立体構造が特徴的だった。雪のオブジェはあるが、冬感が少し乏しいか。
【シャイン】「悪くないな」
【そる】「さっきのNoirが強すぎただけだな」
【マルメン】「30サーバーの平均としては、かなり高水準だ」
これで、30サーバーの発表はすべて終了。
1位はNoirの9,120ポイント。
2位以下は8,700台から7,000台後半に収まった。
ロビーの空気が、再び切り替わる。
次は31サーバー。
スクリーンの表示が更新され、新たなロゴとサーバー名が浮かび上がった。
【アメリア】「ここから、また未知数ね」
【メリッサ】「事前情報では31サーバーは強くはありませんでした……しかし、思わぬ伏兵がいるかもしれません」
29、30と堅実な箱庭が続いた。
だが、Noirのような化け物枠が潜んでいる可能性もある。
【ペンギン】「でも、31サーバーは予選は低かったんだよな!?」
【料理長】「はい、間違いありません!」
観客も、出場者も、自然と息を詰める。
そして――
31サーバーの発表が、ついに始まった。
スクリーンに映し出される最初の名前。
予選1位通過。
『honey 7,622ポイント』
ロビーに、小さなどよめきが走る。
【シャイン】「……あれ?」
【そる】「7,600台?」
【マルメン】「29サーバーの上位と同じくらいだな」
映し出された箱庭は、白い花と噴水を中心にした優雅な庭園都市。色彩は美しく、配置も整っている。
30サーバーのAster以上に冬感が低く、圧倒的というほどではない。
【金糸雀】「悪くはないですが、突出している感じではありませんね」
【クルス】「テーマ感の低さが、点数を高くしなかったのかもな」
続いて、予選2位。
『クランチ 8,379ポイント』
数字が表示された瞬間、ロビーの空気が少し引き締まる。
【たっちゃんパパ】「お、8,300台」
【シャイン】「これはちゃんと強いな」
箱庭は、雲と雪の白を基調にした天空都市。
雲海に浮かぶ回廊、光の柱、神殿風の建築。
美しさと世界観の完成度は高い。
【マルメン】「31サーバーのエースは、この人だな」
だが、30サーバーのNoirの9,120には、届かない。
その後、予選3位と4位が続く。
スコアはいずれも、7,000ポイント台前半。
冬の森林都市、冬の港町。作り込みは十分だが、驚きはない。
【そる】「全体的に、安定型だな」
【シャイン】「30のNoirが異常すぎた」
そして。
31サーバー、最後の発表。
予選5位通過。
スクリーンに表示されたスコアを見た瞬間、ロビーがざわつく。
『ZIGGY 3,200ポイント』
【マルメン】「……え?」
【シャイン】「3,200!?」
【たっちゃんパパ】「半分以上落ちてるぞ」
映し出された箱庭は、巨大なピンク色のキノコに覆われた、カオスな空間。虹色の地面。
テーマ完全無視。
【そる】「いや、これは……」
【金糸雀】「奇抜すぎますね……」
【ペンギン】「攻めすぎたな……」
観戦者席からは、笑い声が上がる。
「なにこれw」
「自由すぎだろw」
「箱庭じゃなくて悪夢じゃんw」
だが。出場者たちは、誰も笑っていなかった。メリッサは、スクリーンを見つめながら、静かに呟く。
【メリッサ】「……他人事ではありませんね」
【アメリア】「ええ。自分では良いと思っていても……」
牙が、低く続ける。
【牙】「テーマに沿ってなきゃ、評価されない。それがこの大会だ」
どれだけ手間をかけても。どれだけ独創的でも。
求められているものから外れた瞬間、点は伸びない。
31サーバーの発表は、これで終了。
最高得点は8,379。
30サーバーのNoirの9,120が、いまだトップを守っている。
そして、残るは32サーバー。
アメリア。
メリッサ。
アリス。
リデル。
そして、オニッシュ。
このロビーにいる当事者たちの番。
誰もが、自分たちの名前が呼ばれる瞬間を、ただ黙って待っていた。




