第三十三話 本戦当日
本戦前日。
スカーレットのメンバーは、ギルド拠点・紅の庭園に全員集合していた。
アメリア。
メリッサ。
cat。
さつき。
ミロク。
ゆり。
もも。
スカーレットメンバー、全員集合。それだけ、この「本戦」が重要な意味を持っている証拠だった。
庭園は、ほぼ完成形に近づいていた。
雪を模した白い装飾。
暖色のランタン。
焚き火の光が作る柔らかな陰影。
温かい冬というテーマは、しっかり形になっている。
【アメリア】「じゃあ、最終チェックいくわよー」
アメリアの声に、全員が散開する。
【cat】「この木、ちょっと右寄せの方がバランスよくない?」
【もも】「視線誘導的には今の位置が正解」
【cat】「うっ……理屈で殴られた」
相変わらずの小競り合いだが、作業は止まらない。
【さつき】「焚き火の明るさ、これくらいでどうでしょう?」
【ゆり】「影が柔らかくなって、いい感じです……!」
芸術ギルドとはいえ、ゲームはゲーム。
安全管理も、立派な演出の一部だった。
その中心で、メリッサは黙々と調整を続けていた。
ランタンの高さ。
布の色味。
小物の配置。
一つ一つを、納得がいくまで修正していく。
【アメリア】「メリッサ、もう十分じゃない?」
【メリッサ】「いいえ。まだ詰められます」
即答だった。
【メリッサ】「綺麗と完成は、別ですから」
誰も反論できなかった。
この数日間、彼女はほとんど妥協を見せなかった。
疲れているはずなのに、目だけは常に真剣だった。
【ゆり】「……本当に、負けず嫌いですね」
【メリッサ】「ええ。自覚はあります」
少しだけ、微笑む。
【メリッサ】「だから、勝ちに行くんです」
夜が更ける。庭園は、静かで、温かく、そしてどこか緊張感を帯びていた。
【アメリア】「よし……これで、現時点のベストね」
全員が中央に集まる。
派手な戦闘力はない。
完璧な装備もない。
スカーレットらしい、丁寧で、優しい作品が、そこにあった。
【cat】「……なんか、感慨深いね」
【ミロク】「ああ。本戦前夜って感じだ」
【さつき】「緊張してきました……」
【ゆり】「でも、ちょっと楽しみです」
メリッサは、完成した庭園を静かに見つめる。
勝ちたい。負けたくない。
でもそれ以上に、ここまで来た。
その事実が、胸の奥で確かな重みを持っていた。
【メリッサ】「明日は、やれることを全部やりましょう」
【アメリア】「もちろん。スカーレットは本気よ」
こうして、本戦前日の最終確認は終わった。
残された時間は、もうわずか。
勝つか。負けるか。
その答えは、明日、すべてが決まる。
本戦当日。
会場となる特設ロビーには、独特の緊張感が漂っていた。予選のときと同じく、点数はリアルタイムで発表される。
ただし、今回は一つだけ違いがあった。
順位は一位からではなく、
29サーバーの予選一位〜五位
次に30サーバーの一位〜五位
次に31サーバー、そして最後に32サーバー
という順番で発表される。
32サーバー特設ロビーには、さまざまなギルドの顔ぶれが集まっていた。
出場者のいる
スカーレット。
ケルベロス。
フローライト。
DARK KING。
そして、惜しくも予選敗退した
すなっち。
ベディビア。
さらに、イベント好きで野次馬気質な
斬々抜断の一部メンバー。
ロビーはにぎやかでありながら、どこか張りつめた空気を帯びていた。
メリッサは、他の出場者に声をかけて回っていた。
【メリッサ】「リデルさん、アリスさん。本戦でも健闘を祈っています」
二人は軽く笑顔で応える。
【リデル】「ありがとう。お互い頑張りましょう」
【アリス】「はい、頑張りましょう」
そのとき。メリッサの視界に、見慣れない人物が入った。
大人びた女性のアバター。洗練されたおしゃれ装備。落ち着いた立ち振る舞い。
その人物は、中性的な声で話しかけてきた。
【オニッシュ】「メリッサさんですね? お互い頑張りましょう」
【メリッサ】「……え?」
ネームタグを見て、思わず声が漏れた。
【メリッサ】「オ、オニッシュさん……!?」
驚いたのは、彼女だけではなかった。その場にいたダークキングのメンバー以外、ほぼ全員が目を見開く。
オニッシュと言えば、今や32サーバーでは知らない者はいない名前。
トップアイドル・篝火琉韻の妹、篝火紫苑が操作する有名プレイヤー。
しかし、一人称は「僕」。
声は低めの中性的。
全身を漆黒の重鎧で固め、巨大ハンマーを振るう前衛職。
どう考えても男キャラだった。それが今、目の前にいるのは、美しい大人の女性アバター。
【cat】「……え? 誰?」
【さつき】「オニッシュさん、こんな見た目でしたっけ……?」
オニッシュは、少しだけ照れたように笑う。
【オニッシュ】「おしゃれ度も、意識してみたんだ」
そのギャップに、ロビーの空気がざわつく。
そして、メリッサは確信した。
(この人も……本気だ)
本戦は、もう始まっている。
ーーー 第六章 メリッサの物語 完 ーーー




