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なろうモノ嫌いの異世界記  作者: 不連続がと
なろうモノ嫌いの異世界記2

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15話 オン

――とある、シアタールーム


 オンが意識を取り戻すと、座っていたはずのコックピットの座席は、柔らかい感触のシートへと変わっていた。


オンはすっと立ち上がると、シアタールーム内に他の観客がいないか、辺りを見回した。だが、そこにはもう、サジもポタルはおらず、居たのは、オンの隣の席に座っているキョウザメエルと、出入り口近くに立っている、清掃担当のスタッフの姿だけだった。


 それを確認して、座席に、もう一度座る。 


 目の前のスクリーンを眺めると、朝方の草原を走るタクシーが映っていた。


「待ち時間の間――、ジークと同じように、夢から覚めて現実へと帰っていった――、ただし、ジークとは違って……報酬、()()()()()だった、かつてのサジの物語のエンディングを、あなたに観てもらいましょう。」


オンの隣に座っていたキョウザメエルが、オンに囁いた。


「え?なにそれ――気になる。」


 あのとき、使い魔と主人としての別れによって、サジとオンは、記憶と意識が分離した。そのため、オンが、今まで知ることが出来なかった、サジの異世界記の終わり――、「それ」を、今、知ることが出来る――。オンは、前のめりになって、スクリーンをじっと見つめた。


 直後、画面には、タクシーに乗るサジとギム、そして二人の会話の光景が映し出された。


『で、ご褒美は?ほら、行く前にもちゃんと約束してたし、異世界モノには付き物だろ?女神ギム様なら、結構なモノが出せるんじゃないか?』


『ふふ、貪欲ですね。ですが、安心してください』


『あなたのPCに、あなた自身の感受性と能力で記した“web向け小説”として、今回の冒険譚を記録してあります』


『……は?……いや、どういうことですか?』


『つまり、あなたは、夜中に一晩で、これまでの異世界での出来事を、PCのテキストファイルに打ち込んだということになっています――。――因果律の整合性を取るための措置です。――書いた記憶はないでしょうが、冒険の記憶はあるでしょう?……あなたが異世界で経験したことは、"創作"として記録されました。異世界での記憶を失わないよう、かつ、2つの世界の理にも適合する形で』


そこで、オンは初めて知ることとなった。


サジの物語のエンディング。


サジが、冒険の果てに手に入れたもの。


「なるほど……、ね。」


オンは、少し笑いながら、呟いた。


「おキョウさん、今、これを僕に見せたらさ……。」


「物語を胸に秘めて帰った、これからの伸びしろのあるジークの方がいい奴っぽくて……」


「やたら報酬に拘ってるサジのほうが、悪い意味で大人っぽくて、意地汚い感じが、しちゃわない?」


 スクリーンの映像が、暗転する。キョウザメエルは、オンの冗談めかした言葉に、静かに返した。


「どうでしょうね……。物の見方は、実に多様に取れますから――、」

「サジ氏のしたたかさは、汚いとも取れますが――。あるいは、異世界での冒険すらも自分の糧とする貪欲さこそが、美しい、と取ることも出来るかと。」


キョウザメエルがそう言うと、オンは


(まぁ、そうとも言えるか……)


と、主人(マスター)の名誉が守られたことに、なんとなく納得する。どっかりと背もたれに寄りかかり、何気なく上を向いた。


見上げると、天井のライトが観客席を照らしているのが見える。


スクリーンが映っている間は暗く、息を潜め、静かに出番を待つ。必要な間は暗闇を演出し、物語が終われば、観客を道案内すべく照らす、その存在。オンはふと、連想した。物語の終わりに――自分自身が他者を照らさなければならない、その役割を。


(ジークが持ち帰った、旅の経験、彼が得たものは、記憶に裏打ちされていて――。)

(その前に、こっちの世界を訪れていたサジの経験は、旅が記憶として残るために、web小説として世界を跨いで運ばれていった――?)


(この二つの事実から、言えることは――。)


「ねぇ、おキョウさん。」


「はい。」


「もしかして、と思うんだけど。僕は、『サジに、僕の物語をweb小説の()()として届けてくれ』と、おキョウさんに言わないといけないんじゃない?」


キョウザメエルは、興味深そうに答えた。


「ふむ、それは、どうしてですか?」


オンは、ひとつひとつ、丁寧に思考を整理しながら、言葉を紡いだ。


「ジークがこの先の人生で、旅の経験を活かせるかは彼の記憶次第。そして、その旅が『本当にあったかどうか』を裏付けるのは、世界を跨いで『あっちの世界』に記録が残るかどうか、だよね?そうじゃなきゃ、ジークのただの夢と、僕の妄想ってだけになりかねない。存在が証明されないまま、世界が巻き戻って、更新しまうんだから。」


「まして、サジの物語とは違って、ジーク自身の物語……それから、僕の物語は、皮肉なことに、努力の結果、両方とも『無かったこと』になってしまったんだ。」


「この逆説……いや、僕にとっての理不尽と言ったほうがいいか。それを解決するには……僕が、おキョウさんに頼むしかないんだ。既に実績のある、サジへの、『続編の提供』を。ジークと、そして僕自身のために。」


「それが――二つの世界を貫く(くさび)が、僕らの戦いが存在した唯一の証明になる……、そうでしょ?」


キョウザメエルは、なるほど、と頷いた。


「ふむふむ。確かに……筋は通っていますね。わかりました。理性と調和の天使こと、私、キョウザメエルの責任で……善処、してみせましょう。」


◇◇◇


「それから、もうひとつ。興味本位だけど……おキョウさんに聞いておきたいことがあるんだ。」


「はい、なんでしょう?」


「おキョウさん……いや、理性と調和の天使キョウザメエル。あなたは……もしかして、女神ギムなんじゃないですか?」


「……ふむ。なぜそのように?」


「根拠は、正直、全て薄くて……多くは、勘に近いけれど……まず、あなたは、天使という立場であるはずなのに、どんな神に仕えているか名乗っていないんです。女神ギムと深い関係にあったサジの使い魔である、僕、オン……。それと接触する場合、女神ギムの関係者ならそれを名乗るし、関係ないにしても、どの神から遣わされたか、みたいなことには全く触れていないんです。」


「興醒めの神、キョウザメに遣わされたというのはどうでしょうか?」


「そう、二つ目はその物言い。あなたは、ずーっと、ふざけていた。真面目になったと思えば、次の瞬間には、もうわけの分からないことをしている。その、堅そうなルックスと裏腹に、ずっと。――神に仕えているはずの天使が、そんなこと、許されるとはとても思えなくて……」


「なるほど。」


「……どうですか?」


オンの質問に対して、キョウザメエルは、少し長くなりますが、と前置きをして、答え始めた。


「まず、その質問に対して、ヒント、背景を説明しておくと……まず、私達がいる世界の枠には、複数の神がいます。義務(ギム)を司る者、権利(ケンリ)を司る者、その他にも、例えば混沌(コントン)を司る者などが。そして、それらには、それぞれの神を信奉する人間や魔族の一族がいます。ギムズ、ケンリスの姓には、あなたにも聞き覚えがあるでしょう。」


「ポタ姉や、ダーウェイ……」


「ここまでが背景で、ここからが天使の話ですが……あなたがおっしゃる通り、天使は神に仕える存在。ここまで自由に動けている私が、天使ならば良し、あるいはそうでなく、偽っているとするのならば、その正体が、天使よりも上位に位置する神である可能性も十分にあるでしょうね。」


「……!」


「ですが……、あなたへの質問の回答は、ノーコメント、です。」


「どうして?」


「物語というのは、複数の可能性を残しておいたほうが、面白い場合もあるのですよ。人生というのは、そもそも、生きているうちに世界の全てを知ることなどは不可能な訳ですから……。最後ですから、そういう学びも入れておきましょう。」


「なんか……適当に濁されている気がする。」


「では言い方を変えましょう。私が仮に神だとして、明かしてしまったら、あなたと接触することは難しくなると思いませんか?御忍びで天使として会えるから許されているのであって、神であると語ってしまったら、大っぴらに会って贔屓することは許されない、と。」


「それは――。――回答をしないかわりに、また僕に会いに来てくれるって、そういうことでいいのかな?」


オンは、笑顔でグータッチを求めた。だが、キョウザメエルは、グータッチではなく、人差し指だけ伸ばした手を、オンに向けた。


「約束は出来ません。その代わり、私達は"友達"である、ということだけ、認めましょう。これで、どうですか?」


「……悪くないね。……今までありがとう、おキョウさん。」


オンは、人差し指を伸ばし、つん、とキョウザメエルの人差し指にタッチした。


そのとき、シアタールームの出入り口から、びゅうと風が吹き込んだ。銀色の髪をした、清掃員としては顔が整い過ぎているように見えるスタッフが、退出を促すように、オンに手を振って招いている。



オンは、それに従って、出口に向かって、歩き出した――。

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