まさに『シュレーディンガーの猫』・・・ね。
新しいキャラクター追加!
ヤフーブログでいろいろとコメントをくれる方です!
カランコロン・・・
カフェリンダの扉がまた開く。
「リンダちゃん・・・奈々ちゃんは見つかったの?」
そう言いながら一人の客が店内に入ってくる。
「ドキンちゃん! 来てくれたのね! 青いノートの情報は読んでくれた?」
リンダがドキンちゃんと呼ぶその女の長く美しい黒髪は眉毛の上できれいに揃えられ、身に着けるものは黒一色で統一されていた。
中世の魔女を思わせるいでたちは神秘的な雰囲気をカフェリンダにもたらした。
「読んだわよ・・・。異空間・・・パラレルワールドとはちょっと違う感じね・・・」
「そうね、多重世界と言えなくもないけどもっと特殊な感じがするわ・・・」
「ドキンちゃん、奈々ちゃんどうなるの?」
椿姫が無邪気に、しかし不安気に聞く。
椿姫も顔なじみの様だ。
「椿姫ちゃん・・・私にもわからないわ・・・だけど・・・この青いノートを・・・とても興味深い記録ね・・・これを読んでみんなで考えましょう。」
「うん・・・椿姫も考える。」
「このノートを書いたのは・・・あなた? 京子さん?」
「あ、はい私です・・・」
京子は圧倒的な雰囲気に気圧され何とか返事をする。
「とても良く書かれているわ・・・あなた・・・奈々ちゃんを守ってくれたのね。お礼を言うわ」
「い、いえそんなお礼だなんて・・・」
「京子ちゃんちゃんと紹介するわね。ドキンちゃんよ」
リンダが京子の肩に手をおいて言う。
「ド、キン・・ちゃんですか・・・どう言う字を書くのですか?」
京子が失礼にあたらないかと気にしながら聞く。
が、京子の疑問はもっともだ。
しばしの沈黙・・・
「もちろんあだ名に~決まぁってまっす~♪」
魔女のようないでたちのドキンちゃんが突然歌いだすと京子はビクッと体を震わせた。
「あはは~椿姫それ知ってる~ピンクレディ~! ドキンちゃんって歌うんだね! 椿姫ビックリ」
「カルメン・・・よ」
「ドキンちゃん、京子ちゃんびっくりして怯えてるじゃない。京子ちゃん怖くないから大丈夫よ」
リンダが京子の肩を揺さぶる。
「あ、いえ、怯えるなんてそんな・・・ごめんなさい」
「京子ちゃん、ドキンちゃんはここの常連さんの一人で覆面小説家なの。だからここでは正体がばれないようにみんなあだ名のドキンちゃんで呼んでいるのよ。」
「そうなんですか、小説家さんなんですね」
「なぜ・・・ドキンちゃん・・・なのかって・・・考えているでしょう?」
ドキンちゃんが京子を見透かすように言う。
「あ、いえ・・・はい・・・」
京子がおずおずと返事をする。
「京子ちゃんドキンちゃんはね! 良いアイディアがひらめいたり、感動したりするとドキンって!ビックリしたみたいに肩を上にあげるの! だからドキンちゃん!」
椿姫がジェスチャーを交えて京子に伝える。
「ドキンちゃんは、不思議な物語やちょっと怖~い物語が得意な小説家なの。それだけに神秘的な事への造詣も深いわ。だから青いノートの情報を送信してここに来てもらったの。異空間って・・・かなり神秘的な空間よね?」
「そうですね・・・とはいっても私も今やこのノート頼みなんですけど・・・」
「あなたは・・・異空間での記憶を失くした・・・?」
「はい・・・すっかり記憶が無くなっています」
「・・・・・」
無言になるドキンちゃん。
「セラ君は?」
ソファーに体を預けるセラの方をみてドキンちゃんが言う。
「セラ君は・・・無意識の領域に・・・旅しているのね・・・」
「そうよドキンちゃん。セラ君は深く無意識の領域に沈み込んでいるわ」
リンダはセラを見つめる。
「私はこの青い神秘的なノートを読んだわ・・・。内的時間の逆行・・・これがひとつのポイントだと思う・・・。奈々ちゃんが異空間から生きて帰って来られるか否かは・・・まさに『シュレーディンガーの猫』・・・ね。内的時間の逆行速度とあなたが青いノートに記した記憶の健忘の具合・・・これが生死を分けると思うわ・・・開けてみなければわからない・・・だけど観測のしようもない・・・難題だわ」
「シュレーディンガーの猫・・・ですか?」
京子が反芻する。
「京子ちゃんその猫なに?」
「んっん~! 椿姫ちゃん? それはこのリンダちゃんが説明しましょう」
リンダが咳払いをし、専門家の威厳を示す。
「シュレーディンガーの猫って言うのは、量子力学における有名な思考実験のことよ。箱の中に『猫』と『1時間以内に50%の確率で崩壊する放射性物質のラジウムを一定量』と『原子の崩壊を検出すると青酸ガスを出す装置』を入れておくの。箱に入れたラジウムが1時間以内にアルファ崩壊してアルファ粒子が放出される確率は50%だから、この箱の蓋を閉めてから1時間後に蓋を開けて観測したとき、猫が生きている確率は50%、死んでいる確率も50%ってことになるわよね? だから、この猫は、生きている状態と死んでいる状態が1:1で重なりあって箱の中で存在していると解釈しなければならない。1時間後の箱の中の猫は観測者が観測し終わるまでは生きている猫と死んでいる猫が重なり合って存在しているって言う量子力学的な小難しい考え方なの」
「リンダちゃん? 椿姫、リンダちゃんが何言ってるのかわからない。箱を開けた時は生きている猫か死んじゃった猫しかいないよね? 普通・・・ってか猫かわいそうだよ!」
「椿姫ちゃん、大丈夫よこれは思考実験だから実際に猫を箱に閉じ込めたりしないのよ。量子の世界では例えば原子のスピンは上向きの状態と下向きの状態がそれぞれ50%の確率で重なり合って存在していてその原子の状態を観測器を使って観測者が観測した時にいずれかの状態に確定するの。量子力学の確率解釈なんて言うわ。小さな小さな量子の世界の出来事を猫って言うマクロの世界に置き換えたのがシュレーディンガーの猫なの。まっ、だからこそ観測するまでは生きている猫と死んでいる猫が重ね合って存在するなんて言う通常では理解が困難な状況を敢えて提示しているのね。この問題は未解決の問題といってもいいわ。つまりシュレーディンガーは量子力学の確率解釈論の問題点を指摘したかったんだけど結果的にはそれをもとにいろいろな理論が唱えられているわ」
「ふ~ん・・・なんだかわかったようなわからないような・・・」
椿姫が頭を抱える。
「量子力学の世界では今のところコペンハーゲン解釈が主流なのかな。つまり量子力学の状態は、いくつかの異なる状態の重ね合わせで表現されるって解釈で、このことを、どちらの状態であるとも言及できないと解釈し、観測すると観測値に対応する状態に変化する、波束の収縮が起こるっていうこれまた難解な解釈ね。」
京子がリンダに続ける。
「う~ん・・・」
椿姫がますます唸る。
「人間の意思が量子の状態を決めるとする『意思説』という解釈もある・・・。量子力学と哲学を関連づけた考え方ね・・・。『人間が状態を認知した瞬間』が『量子の状態が決まる瞬間』であることを前提としているけど・・・その前提には理論的裏付けがなく、実験による確認もされていない・・・・。複数の検証不可能な仮定の積み重ねに基づいていて、科学理論としての要件を満たしているとは言い難いがね・・・」
ドキンちゃんの解釈に至ってついに椿姫が降参する。
「むずかしくて椿姫にはわからないことがわかったよ・・・」
「奈々ちゃんは異空間で極限の内的時間の逆行状態に達する前に・・・脱出しなければならないわ・・・この状態がシュレーディンガーの猫で言う・・・放射線が検出され青酸ガスが発生した状態ね・・・」
ドキンちゃんはまるで熟考するように言葉を噛みしめながらゆっくりと話す。
「それはつまり・・・極端な表現をすれば知的に赤ちゃんレベルまで時間が逆行した状態のことですか?」
京子がドキンちゃんに尋ねる。
「恐らく肉体的な逆行はそう目に見えては変化しないだろう・・・一度できた骨格がそうやすやすと赤ちゃんには戻れまい・・・。しかし精神、知的、記憶に関してはその逆行速度がわからないから何とも言えないが・・・少なくともこの神秘の青いノートには記憶が曖昧になる現象が記録されている・・・」
ドキンちゃんは一旦言葉を切り、再び・・・。
「記憶や意識が、死神や漆黒の津波を回避することを認識できなくなった時・・・それがトリガーとなって破滅が来る・・・・。それまでの間は脱出できる可能性、出来ない可能性はともに50%・・・。重ね合わさって存在していると言ってもいいだろう・・・」




