奈々姫! 私はあなたをこの異空間から助け出すためにやって来ました!
久しぶりに奈々!セラとどう絡ませるか思案中~
何かご意見在りましたらぜひコメント下さい!
『今日もまた異空間の大気成分や放射線量について計測したが、顕著な成果は得られなかった。原則的には7日間程度で漆黒の津波と死神が空間の入れ替えに来ることが観測により確認がされているが今だ謎が多い。』
『漆黒の津波は古い空間を壊し新たな時間軸をもたらしているようだがその目的については不明だ。しかしこの運動が存在するおかげで私たちはこの空間で何とか生きながらえている。』
『死神については、異空間に生命の存在を許さないと言った規範に基づいて行動しているように感じる。横軸での移動については電車との速度の比較から、おおよそ時速100㎞ほどであると把握しているが横方向への移動に際して彼らはベクトルを転回することが出来ないようだ。』
『どうしてそうなのかは不明であるが横方向からの攻撃は移動しながら。その攻撃に失敗した際は一度、驚くべき高速度で上空に舞い上がり、2回目以降の攻撃に関しては攻撃終了後その動作を繰り返す。従って2回目以降の攻撃はまるでICBMの様に超高度から降り注いでくるような攻撃となる。その威力はビルの外壁を突き破り1階部分にまで達するほどである。』
『出現する死神の数は時々によって異なる。これも推測にすぎないが同じエリアに存在する生物の個体数によって変化するのではないかと推測している。概ね2~4体ほどの個体が一度に飛来することを観測しているが、死神の個体数の変化が生物の数に比例すると仮定した場合私たち以外にもこの空間に生命が存在していることが条件となる。実際に私たち以外の生物と遭遇することはこれまでなかったが、死神が3体飛来した際に2体が私たちの方向に向かい、残りの1体が別の方向に飛んで行ったことからもこの仮定はある程度確実であると考えている。』
『これまで何度か死神と対峙したが彼らは硬質のフォルムでありながら打撃攻撃に弱く、例えば鉄のパイプで突く、といった一点攻撃で容易にバラバラになる。しかし切りつける蹴り飛ばすといった打撃攻撃に関してはほとんどダメージを与えることはできない。彼らは地に接することなく常時浮遊していることもその一因であると考える。』
『一見硬質で、漆黒の鉱物のようなものが多面的に寄せ合った外見であり、その個体が浮いていることからも軽量であるように思えるが運動性能の特徴である横方向への転換の制限から考えると実は超質量を持ち合わせていることも考えられる。』
奈々の姉の書斎で京子が書き物をしている。静寂な空間での作業は集中することが出来るものの時に気がめいる。
す
「フーッ・・・こんな事書き残しても、異空間で死んじゃったら何の意味もなくなるな・・・」
そうつぶやきながら青いノートを見つめる。
しかし書き残さずはいられないのである。
異空間では内的な時間が逆行していることがほぼ確定的な事実として把握されていた。
日々記憶が曖昧になってきていることを京子は実感しているのである。
自分たちがこの先も確実に生き延び、そしてこの異空間から脱出するためには大切な記録だと信じて記録を続ける京子であった。
ため息をつきながらも記録を続ける京子。
『ここからは、いつもの日記! 今日も1日疲れた~。だけど奈々の夕飯で生き返った。今日もなんだか奈々をいじめたくなって、奈々が鈍臭いみたいな感じでからかったら危うく夕飯を取り上げられるところだった・・・。どうも奈々を見てると意地悪言いたくなっちゃうんだよね(笑) 素直すぎるほど素直。表情感情豊か、家庭的なところもあるし守ってあげたくなる可愛さだよね。』
そんなことを書きながらついニヤニヤする京子。
『でも、あたしの推測だと、このまま異空間に居続ければいずれ記憶は相当失われる。それから異空間から正常な空間に戻れたとしてもやっぱりここでの記憶は失われるはず。それはあの死神の行動から容易に想像ができる。やつらはこの空間に生き物がいる事を許さない。それはつまりこの空間の存在の認知を許さないということに直結するって、そう感じるんだよね。』
『だからあたしはここでの奈々との生活も極力記録に残していたい・・・。なんとかして元の空間に戻れたら、きっと奈々もあたしもお互いのことを認識できない。そんなの嫌だ! こんな訳のわからない空間にあって、こんなにも穏やかに絶望することなく生活ができるのは奈々との楽しい生活があるから。あたしは何があっても奈々を守る! そしてきっと奈々とふたりでこの異空間から脱出する!』
そこまで書くと一旦筆を止め、キッっと中空を睨む京子。
その姿はまるで決意を新たにするかのようであった。
『でも・・・いくら無事に元の空間に帰れたとしてもお互いがお互いの存在を全く意識できずにいるのなんてやっぱりどうしても嫌だ! このかけがえのない日々を忘れたくない。 今はどうしていいかわからないけれどあたしはこの青いノートに奈々のこと自分のことこの異空間で過ごした日々を少しでも多く書き残しておきたい。』
『元の世界で二人が再開した時・・・たぶんお互いの顔も名前もわからない。街ですれ違ってもきっとわからない・・・。そんなことってある? あたしは異空間からの脱出方法とここでの記憶を盗み出すことを一生懸命考える。たとえ無事元の世界に帰れても奈々のいない世界なんて考えられない・・・。奈々はあたしにとってかけげえのない存在! お互いがお互いのことを忘れていることすら認識できないなんて絶対に嫌だ! そんなの淋しすぎるし、』
と、そこまで書くと不意に奈々が声をかけてくる。
「京子ちゃん? まだ寝ないの?」
「奈々? まだ起きてたの? 早く寝なきゃ」
京子が小さな女の子をたしなめるように優しく言うが、
「・・・京子ちゃんわかってるくせにまたそんな意地悪言って・・・」
奈々が恨めしそうな顔をして京子に反論する。
「ってまだあの鏡の話にこだわってるの?」
「だって、鏡見ると思い出しちゃうんだもん・・・」
こうなるともう奈々はほとんど幼子だ。
「わかったわかったじゃあ一緒に寝よう。あの話の続きをしてあげるよ」
「嫌だよあんな怖い話もう聞きたくない!」
奈々が本気で怖がり耳をふさぐ仕草をする。
「いいからいいから、寝室行こう」
そう言うと京子は青いノートを閉じ、さっさとベッドに向かう。
「京子ちゃん待ってよ! 奈々を一人にしないでってば!」
慌てて京子の後を追う奈々。
京子は既にベッドに横になっている。
ベッドでたたずむ長身の京子の横顔はまるで端正な顔つきの美男子のように見える。
それは奈々がベッドに入るのを一瞬躊躇わせるほどだ。
「奈々? 何してんの? 早くおいで、お話の続きしてあげるから!」
ベッドサイドでもじもじする奈々を促す。
「怖い話はもう嫌だよ?」
おずおずとそう言いながらベッドに横になる奈々。
「あの話ってさ結局、『鏡から白い手が出てきて~』ってところで奈々が怖がって耳塞いじゃったから途中で終わってたじゃない?」
「うん・・・だって『白い手が鏡の中から、うあぁぁぁ~』って京子ちゃんがすごく怖い感じで言うから奈々は耳をふさいで目をつぶってお布団にもぐっちゃったから・・・」
「で、そのままふて寝ね」
「・・・・・」
京子がおかしそうに言い奈々は無言で抗議する。
「ではあの話の続き・・・『白く逞しい手はそのまま鏡のわきの壁をしっかりと掴んだ』」
「嫌っ!」
そう小さくつぶやくと奈々が布団にもぐろうとするが京子がそれを遮る。
「ダメダメ奈々? ちゃんと聞かなきゃ!」
「だって・・・」
京子は奈々に構わず話し出す。
「『白い腕に力が入るのがその腕の筋肉の動きでわかった。すると・・・鏡の淵に足が掛けられ続いて
耳を覆うほどの長髪を蓄えた男の頭が鏡の中から出てきた。次の瞬間男は小さな鏡をスルリと抜け出し奈々の目の前に立ったとさ。 奈々が呆気にとられて男を見つめていると・・・なんとさっき男が抜け出してきた鏡の向こうから白馬が猛烈なスピードで駆け寄ってきているではありませんか! 奈々は白馬が鏡を割ってしまうのではないかと驚き目を閉じましたがそんな奈々の心配をよそに奈々がもう一度目を開けた時には長髪の男のわきに立派な体躯の白馬がいたのでした。』」
「え? え~? それって王子様? 京子ちゃん怖い話じゃなかったの?」
「シーッ大人しくいい子でお話を聴いて」
戸惑う奈々の口元に指を当てて京子が言う。
「『奈々姫! 私はあなたをこの異空間から助け出すためにやって来ました! 私が来たからにはもう安心! さあ奈々姫、私と一緒に元の世界に帰りましょう! 白馬の王子はそう言うと奈々の手を引き白馬に乗せるのでした。奈々姫! しっかりつかまっていてください! これから元の世界に戻りますよ! そして戻った暁には私の妃になって下さい! 私は一生をかけて奈々姫を幸せに致します! 王子はそう言うと白馬の踵を返し鏡から遠ざかったと思うともう一度鏡に向き合った。 白馬はどんどんスピードを上げ鏡に向かって走る走る! 奈々姫は目をつぶり王子にしっかりと掴まる。そして白馬は鏡の前まで来るとバッっと飛び上がり鏡に飛び込みました・・・奈々姫と王子を乗せた白馬は鏡の向こうへスルリと通り抜けました。奈々姫がつぶった目を次に開けた時、そこは豪華絢爛王宮の中でした。王宮では奈々姫と王子との結婚式の準備が進められていました。無事異空間から脱出した奈々姫はその後王宮で白馬の王子と末永く幸せに幸せに暮らしましたとさ・・・おしまい!」
「うふっ・・・・・白い手は、白馬の王子様だったんだ~」
奈々がニヤニヤしながら言う。
「そうそう! 白馬の王子様! 良かったね~奈々は無事、異空間を脱出してお妃様になって幸せに幸せになったんだよ~。だからもう怖がらなくてよいから良い子でねんねしな~」
「もう! せっかくいい気分なのにまた奈々のこと小っちゃい女の子扱いして~」
奈々が拗ねたように言う。
「京子ちゃん? 京子ちゃんはどうなったの?」
奈々が心細そうに言う。
「え? あたし? あたしは・・・」
急に言われ答えに窮する。
「奈々は京子ちゃんも一緒じゃないと嫌だよ?」
不安気に京子を見つめる奈々。
「奈々・・・」
心配げな奈々の頭をポンポンっと軽くたたくと、
「奈々心配しなくて大丈夫! あたしにもアンドレザジャイアントみたいなでっかい王子様がもう白馬どころじゃなくって白象に乗って助けに来るっていうサイドストーリーがあるから心配ご無用!」
「京子ちゃん? アンドレザジャイアントって誰?」
キョトンとして奈々が言う。
「まぁまぁ奈々は何も心配しなくていいよ! あたしが奈々を守るからね! さぁもう白い手は怖くないだろう? なんたって奈々を助けてくれる白馬の王子様なんだから、奈々安心して眠りな。おやすみ・・・」
「おやすみ京子ちゃん・・・」
大きなベッドが二人を優しく包み眠りへといざなう・・・
静寂の夜が音もなく過ぎていく。




