表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深海のアメティスタ  作者: 夢星 藤姫
第一章 深海の王女
4/4

2

 城へと続く中央の道を、とぼとぼと歩いていたフィーナは、ふと目の前が暗くなるのを感じて立ち止まった。ゆっくりと顔を上げると、そこにはフィーナにとって、慣れ親しんだ青年が立っている。見た瞬間、思わず顔を顰めてしまい、すぐに元の表情に戻したが、目ざとく見ていた青年は、目をつり上げてフィーナの腕を掴んだ。

「フィーナ、やっと捕まえましたよ!」

「ウィド」

 フィーナの腕を掴んでいるのは、ウィドス・シー。フィーナの側近であり、幼い頃から兄妹のように育ってきた幼馴染みだ。奔放に育ってきたフィーナのお目付け役を自負している彼は、ふらりと外に出かけてしまう彼女を、探して連れ戻すのが日課になっていた。

「フィーナ、本当に困った人だ。いつも僕の心配をよそに抜け出して。いつか本当に取り返しのつかないことになりますよ!」

「……」

 何度説教しても効果がない現状に、半ばあきらめている。それでも、言うべきことは言わねばならないと、ウィドスはいつもの調子で嗜めた。だが、常ならばすぐに来るフィーナからの反論が一向にやって来ない。

「フィーナ?」

 不審に思ったウィドスが、様子を伺うと、そこには、湧き上がる何らかの感情を、必死で押し殺そうとする痛々しいフィーナの姿があって、無意識に息を飲んだ。

「フィーナ、どう、したのです?」

「……」

「フィーナ?」

 声をかけても、唇を噛みしめたまま、何も答えないフィーナに、ウィドスは困り顔で彼女を見つめる。いつも元気で、明るい彼女に一体何があったのか。思い当たることがないウィドスは、どうしたものかと溜息をつく。その時、フィーナが小さな声でぽつりと問いかけてきた。

「ウィド、は、何も知らないの?」

 その問いに、ウィドスは首を傾げる。フィーナはウィドスの様子に、本当に何も知らないことを確信し、なにを言っていいか分からず、再び口を閉ざす。

「……その言い方は、城に情報が届いているということですか。あなたの落ち込んでいる原因が」

 フィーナの言いたいことを察したウィドスが、はっきりと言葉にすると、フィーナは少し間を置いて小さく頷いた。

「あいにく、僕は今まで、抜け出したあなたを捜しまわっていたので、城に届いている情報は聞いていません。いったい、なにがあったのですか」

「……」

 情報を聞きだそうとしたウィドスだったが、フィーナは何も答えない。これはかなり落ち込んでいるな、と感じたウィドスは、仕切り直すために、フィーナの頭を撫でながら移動を促した。

「取り敢えず、城に戻りましょうか」

 詳しい話は、戻ってから聞きますよ、という、いつにない優しい声に、フィーナは目に涙を滲ませながらこくりと頷いた。




 美しい街並みの中央には、一本の大きな道が伸びている。それは、セイレーン族の街シーマランの入り口から、街の最奥に佇む城までまっすぐに結ばれており、この道からであれば、妨げる建物もなく、優美な城の全貌が見えるようになっていた。

 虹色に光る不思議な光沢の城に、初めて見た者は、一瞬にして見惚れ、意識を奪われる。ただの城と違う、なにか近寄りがたい雰囲気を持つその城の名を、シーザリア城といい、その城の主の名をエリル・ディーナという。

 エリル・ディーナはセイレーン族の長である。セイレーン族は代々女性を長と定めている。元々セイレーン族は女系種族であり、男性は女性の三分の一程度の人数しかいない。さらに、王族の直系は女性の方が強い能力を持って産まれることもあり、女性が長になるのだ。

 現在の長エリル・ディーナには、今年十七歳になる一人娘がいた。娘の名はエリル・フィーナ。ウィドスが腕を掴んでいる、少女フィーナは、時期セイレーン族の長という立場にあった。

 ウィドスが城を抜け出して遊びに行くフィーナに説教するのは、彼女の立場故の危険を回避したいため。フィーナはそれを分かっているはずなのだが、現時点でそれを態度で示してくれたことは無い。そのことについては、ウィドスも頭が痛い所なのだが、こう落ち込んでいる彼女を見ると、城を抜け出すくらい元気な方が遥かにましに見えた。

 腕を掴むのを止め、手を繋いで誘導するように歩くウィドスと、元気のないフィーナの姿は、城の者たちにも異様に見えたらしい。二人を見てざわつく周囲に、ウィドスは溜息をつきたいのを我慢してフィーナを彼女の部屋まで送った。

「さて。話をする前に気持ちを落ち着けましょうか。お茶を用意させますから少し待っていてください。私は、城にもたらされている情報を確認してきます」

「うん……」

 フィーナが頷くのを見たウィドスは、部屋の外に控えていた侍女にお茶を用意するように指示し、自身はディーナの執務室へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ