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お飾り婿のつもりでしたらお引き取りくださいませ 〜無能だと勘違いした馬鹿どもを、婚約者が本物の手腕とざまぁで叩き潰します〜  作者: あずきまんま


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第5話_無能な穀潰しは、どちらだったかな

「――そこまでにしておこうか、愚かな兄上たち。いや、自分の首がすでに飛んでいることにも気づかない、哀れな犯罪者諸君」


大審問室の空気をビリビリと震わせる、低く、冷たく、それでいて圧倒的な威厳を帯びた声が響き渡った。


全員の視線が、ただ一点に集中する。


セレスティアの背後に立っていたレイジが、ゆっくりと一歩前に踏み出していた。


「れ、レイジ様……?」


驚くセレスティアの横を通り過ぎ、レイジは自分の前髪を無造作に後ろへとかき上げた。


露わになったのは、息を呑むほど端正な美貌と、絶対零度の光を宿した黒曜石の瞳。


そして次の瞬間、レイジの身体から、大審問室のステンドグラスがミシミシと悲鳴を上げるほどの、計測不能なまでの莫大な魔力と覇気が解き放たれた。


「な、なんだこの魔力は……!? 息が、できん……!」


「ば、馬鹿な……! レイジは魔力なしの落ちこぼれだったはずでは……!?」


傍聴席の貴族たちが恐怖で椅子から転げ落ち、ガルドとディノが顔面蒼白になって後ずさる。


それと同時に、大審問室の重厚な正面扉が「バンッ!!」と音を立てて左右に開け放たれた。


雪崩れ込んできたのは、黄金の獅子紋章を掲げた『王宮近衛騎士団』の完全武装した精鋭部隊三十名と、純白の法衣をまとった『王宮最高監査官』、そして黒衣の腹心・クロウ率いる法務官の一団だった。


「な、なぜここに近衛騎士団と最高監査官閣下が……!?」


買収されていた主任監査官が、ガタガタと震えながら椅子から立ち上がる。


しかし、最高監査官は彼には目もくれず、壇上へと歩み寄ると、レイジの前で深々と最敬礼を捧げた。


「――お待たせいたしました、王宮特務監察局・最高統括官にして、ヴェール商会オーナー、レイジ・ヴォルター閣下。ご命令通り、すべての包囲と証拠の保全が完了いたしました!」


最高監査官に続いて、三十名の近衛騎士たちが一斉に槍の石突きを床に打ち鳴らし、レイジに向かって敬礼する。


大審問室が、水を打ったような静寂に包まれた。


「……は? と、特務監察局の、最高統括官……? ヴェール商会の、オーナー……?」


セレスティアは自分の耳が信じられず、呆然とレイジの横顔を見つめた。


『王宮特務監察局』といえば、国王の直轄として貴族の不正や国家反逆罪を直接裁くことができる、公爵家すら超える絶対権限を持った機関だ。そして『ヴェール商会』とは、王国の経済の三割を動かすと言われる、正体不明の超巨大投資コンツェルンである。


その二つの頂点に君臨する人物が、いつも自分の執務室でお茶を淹れては軽口を叩いていた、あの「昼行燈な婚約者」だというのか。


「う、嘘だ……! デタラメを言うな!! こいつは我がヴォルター侯爵家で一番無能な、ただの穀潰しの三男だぞ!!」


ガルドが狂ったように叫んだ。


レイジは懐から、国王の直印が刻まれた黄金の『特務監察官徽章』を取り出し、冷酷な笑みを浮かべて兄たちを見下ろした。


「無能を演じていたんだよ、兄上。強欲で無能なあなた方に僕の資産や能力を嗅ぎつけられ、くだらない権力争いの道具にされるのが心底鬱陶しかったからね。……さて、僕の大切な婚約者を散々に侮辱してくれたお礼を、順番に返していこうか。クロウ、まずは一つ目だ」


「はっ!」


腹心のクロウが一歩前に出て、分厚い羊皮紙の束をガマル会頭とカルネ子爵の目の前に叩きつけた。


「まず経済的措置について通達する! 本日午前九時をもって、ガマル商会およびカルネ子爵家が保有するすべての債権、流通手形、店舗不動産、および商業ギルドの株式は、すべて我が『ヴェール商会』が完全買収し、即時凍結した!」


「な、なんだとぉっ!? わ、私の全財産が凍結……!? そ、そんな馬鹿な、裏で資金を回してくれていた投資銀行は……!」


ガマル会頭が目を剥いて絶叫すると、レイジは感情の欠片もない声で告げた。


「お前たちが頼りにしていたその投資銀行自体が、ヴェール商会の子会社だよ。お前は僕の金を使って、僕の婚約者の領地を乗っ取ろうとしていたわけだ。滑稽だろう? ガマル商会は本日付で即時破産、全資産は没収され、その一部がアルトリア伯爵家への賠償に充てられる。お前は一文無しの奴隷鉱夫として、自分が奪おうとした鉱山の底で一生ツルハシを振るうといい」


「ひぃぃっ!? そ、そんなぁぁっ……!!」


ガマル会頭が泡を吹いてその場に崩れ落ちる。


「では二つ目だ。カルネ子爵、およびそこの買収された主任監査官」


レイジが指を鳴らすと、近衛騎士たちが後ろ手に縛られた数名の男たち――関所の役人や、偽造インクを製造した職人、そしてガマル商会の金庫番を審問室へと引きずり出した。


「僕がこの三ヶ月間、アルトリア領で『散歩』と称して何をしていたか教えてやろう。カルネ子爵、お前がガマル商会や次兄のディノと結託して行っていた『王都税の横領』『関所での違法な通行税徴収』『魔鉱石の隣国への違法密輸』、そして今回の『公文書偽造』の決定的な裏帳簿と証人を、一人残らず洗い出していたのさ」


クロウが黒革の帳簿を最高監査官へと手渡す。そこには、カルネ子爵とディノの署名入りで、何年にもわたる国家規模の汚職と密輸の記録が克明に記されていた。


「こ、これは間違いなく国家反逆罪に匹敵する重罪である! カルネ子爵、ならびに収賄を行った主任監査官! 貴様らの爵位と官職を即刻剥奪し、全財産没収の上、王都地下監獄での終身刑に処す!!」


「お、お助けをぉぉっ!」


最高監査官の仮借ない宣告に、カルネ子爵と主任監査官は泣き叫びながら近衛騎士たちに鎖で縛り上げられた。


そして、レイジの冷徹な黒曜石の瞳が、最後に残った二人の兄――ガルドとディノへと向けられた。


「……っ、ま、待てレイジ!! 僕たちは実の兄だぞ! ヴォルター侯爵家の血を分けた家族じゃないか! カルネとガマルが勝手にやったことで、僕たちは騙されていただけだ!!」


次男のディノがボロボロと涙と鼻水を流しながら命乞いを始め、長男のガルドも必死に威厳を取り繕おうと声を張り上げた。


「そ、そうだ! 貴様がどれほど出世していたとしても、本家……いや、実家であるヴォルター侯爵家に傷をつければ、父上が黙っていないぞ! 家族のよしみで今回のことは水に流せ! そうすれば実家の後継者の座を貴様に譲ってやってもいい!」


見苦しいにも程がある兄たちの言葉を、レイジはただ静かな、底知れぬ軽蔑を込めた吐息で切り捨てた。


「家族? 笑わせるな。僕を『無能な穀潰し』と罵り、あまつさえ僕が命に代えても守ると誓った最愛の女性――セレスティアの誇りを泥靴で踏みにじろうとした瞬間、お前たちはただの『駆除すべき害虫』になったんだよ」


レイジは最後の一枚の書類を、ガルドの顔面へと突きつけた。


「三つ目、これが実家への引導だ。長男ガルド、次男ディノ。お前たち二人が密輸シンジケートの上納金を受け取り、アルトリア家への恐喝を主導した証拠はすでに国王陛下に提出し、先ほど『両名の廃嫡および貴族籍剥奪、辺境開拓地での二十年間の強制労働』の勅命が下りた」


「な……っ、は、廃嫡……!? 強制労働だとぉっ!?」


「それだけじゃない。ヴォルター侯爵家の事業を支えていた資金の八割――金貨三十万枚は、実は僕が匿名でヴェール商会から融資してやっていたものだ。今朝、僕の籍をヴォルター家から完全に抜く手続きを完了させると同時に、その三十万枚の即時一括返済請求を父上に突きつけておいた」


レイジは、絶望で口をパクパクと開閉させる兄たちを見下ろし、氷の微笑を浮かべた。


「支払えるはずがないよね。よってヴォルター侯爵家は本日をもって領地と屋敷の大半を差し押さえられ、男爵位へと降格、事実上の没落が決定した。――さて、兄上たち。帳簿も読めない無能な穀潰しは、一体どちらだったかな?」


「あ……あぁぁ……っ、ふざけるな、ふざけるなぁぁぁっ!! 俺は侯爵家の長男だぞ! こんなことが許されるはずが……っ!」


「嫌だ、僕は働きたくない! レイジ、助けてくれ、謝るからぁぁっ!!」


狂乱して泣き喚くガルドとディノ、そしてガマルとカルネ子爵は、近衛騎士たちによって無慈悲に猿轡を噛まされ、大審問室から引きずり出されていった。買収されていた取り巻き貴族たちも、共犯として全員がその場で検挙されていく。


わずか十数分の間に、アルトリア領を脅かしていたすべての巨悪が、文字通り塵一つ残さず粉砕されたのだった。


そして最高監査官は、呆然と立ち尽くすセレスティアに向かって恭しく頭を下げた。


「セレスティア・アルトリア伯爵令嬢。今回の不当な差し押さえと精神的苦痛に対する賠償として、ガマル商会およびヴォルター家から没収した資産のうち、金貨十万枚と王都の商業特権がアルトリア伯爵家へ授与されます。……本当に、素晴らしい婚約者様をお持ちですな」


嵐のように去っていく騎士たちと監査官を見送りながら、セレスティアはただ一人、自分の隣で再び優しい瞳に戻ったレイジを見上げるしかなかった。


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