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僕の愛  作者: R
第一章 あと半年

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9/11

選ぶということ

美月ちゃんの相談を受けてから、数日が経った。


あれから何度か、彼女にどんな言葉をかければいいのか考えていた。


学校を続けたほうがいいのか。それとも、辞めることもひとつの選択なのか。


正直、俺にはわからない。


彼女がどれだけ苦労しているのか、俺には想像することしかできないからだ。


ただ、今が苦しいからという理由だけで決めてしまえば、いつか後悔する日が来るかもしれない。


もちろん、続けることだけが正解でもない。


だからこそ、彼女自身が納得できる答えを見つけてほしいと思った。


その日の夜、俺はいつもの居酒屋に顔を出した。


美月ちゃんは忙しそうに店内を動き回っていた。料理を運び、注文を取り、客の呼び出しに応える。


いつもと変わらない姿に見えたが、ふとした瞬間に疲れた表情を見せるのが気になった。


しばらくして、空いた皿を下げに来た彼女に声をかけた。


「この前の話なんだけどさ」


「学校のことですか?」


「うん。あれから、俺もちょっと考えてみたんだ」


「……ありがとうございます」


「辞めるのが悪いとは思わないよ。でも、今がしんどいからって理由だけで決めちゃうのは、ちょっともったいない気もするんだ」


美月ちゃんは、黙って俺の話を聞いていた。


「美月ちゃん、もともと美容師になりたくて学校に入ったんだよね?」


「……はい」


「その気持ちは、今もある?」


彼女はすぐには答えなかった。


そのとき、厨房から彼女を呼ぶ声がした。


「あ、すみません。行ってきますね」


「うん。仕事頑張って」


彼女は小さく頭を下げ、仕事に戻っていった。


俺は水をひと口飲んだ。


今の美月ちゃんに必要なのは、俺が答えを出してやることじゃない。


学校を辞めることも、続けることも、最後に決めるのは彼女自身だ。


ただ、苦しさから逃れるためだけに選んで、あとから自分の気持ちに気づくようなことにはなってほしくなかった。


そんなことを考えながら、俺は料理が運ばれてくるのを待った。


*


その週末、美月は久しぶりに彼氏と会っていた。


一緒に食事をして、他愛もない話をする。


それだけで、張り詰めていた気持ちが少しずつ緩んでいく。


やっぱり、彼といる時間は好きだった。


「最近、なんか疲れてない?」


食事をしていると、彼が心配そうに尋ねてきた。


「そうかな?」


「うん。前より元気ない気がする」


少し迷ったけれど、私は学校のことを話してみることにした。


課題が終わらないこと。


バイトとの両立がしんどいこと。


最近、学校を辞めることまで考えていること。


彼は、黙って話を聞いてくれた。


そして、ひと通り話し終えた私に、あっさりと言った。


「そんなにしんどいなら、学校辞めて一緒に暮らせばいいじゃん」


「……え?」


思ってもいなかった言葉に、私は目を丸くした。


「だって、そんなに大変なんでしょ? 無理して続ける必要なくない?」


彼は、ごく自然なことのように続けた。


「一緒に住めば、今より会える時間も増えるしさ。俺はそのほうが嬉しいけど」


胸の奥が、じんわりと温かくなった。


彼は、私と一緒にいたいと思ってくれている。


学校を辞めてもいい。


頑張り続けなくてもいい。


そう言ってもらえた気がした。


「……そっか」


「まあ、すぐに決めなくてもいいけどね」


彼はそう言って笑い、別の話題に移った。


私も、それ以上は何も言わなかった。


帰り道、彼の言葉を思い返していた。


学校を辞めて、一緒に暮らす。


朝、慌てて課題を確認することもなくなる。


バイトから帰って、疲れたまま机に向かうこともなくなる。


その代わりに、彼と一緒にご飯を食べたり、何でもない話をしたりする時間が増える。


そんな毎日を想像すると、少しだけ気持ちが軽くなった。


今の生活を続けることに、私は疲れていた。


だから、彼が差し出してくれた選択肢は、私にとって救いのように思えた。


けれど、ふと蓮さんの言葉が頭をよぎった。


――美月ちゃん、もともと美容師になりたくて学校に入ったんだよね?


私は足を止めた。


美容師になりたいと思って、専門学校に入った。


自分で決めたことだったはずなのに。


今は、学校を辞めたあとのことばかり考えている。


彼と一緒に暮らしたい気持ちは、確かにある。


でも、それと学校を辞めることは、本当に同じなのだろうか。


私はしばらく、その場に立ち尽くしていた。


答えは出なかった。


小さく息を吐き、再び歩き出す。


自分が本当にどうしたいのか。


まだ、はっきりとはわからなかった。

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