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僕の愛  作者: R
第一章 あと半年

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わからなくなったこと

最近、美月ちゃんの姿を店で見かけていなかった。


忙しいのだろうか。


以前、夢の話をしたとき、美月ちゃんは美容師になりたいと言っていた。


あのときの彼女は、自分の将来について話すのが少し楽しそうだった。


だからだろうか。


久しぶりに店で顔を合わせた彼女が、どこか疲れているように見えたのは。


「いらっしゃいませ」


いつもの制服姿で、美月ちゃんが席へ案内してくれる。


「久しぶりだね」


「そうですね。最近ちょっと忙しくて」


そう言って笑った彼女の顔には、以前よりも少しだけ元気がない気がした。


けれど、仕事中にあれこれ聞くのも違うだろう。


俺はいつもどおり注文を済ませ、食事をしながら過ごした。


やがて閉店時間が近づき、店内の客も少なくなっていく。


最後の客を見送り、片付けを終えた美月ちゃんが、俺の席へやってきた。


「蓮さん、まだ少し大丈夫ですか?」


「ん? どうしたの?」


「ちょっと……話したいことがあって」


いつもの明るい声とは違う、控えめな口調だった。


「いいよ」


俺がそう答えると、美月ちゃんは少し迷ったあと、ぽつりと口を開いた。


「私、最近……やりたいことがわかんなくなっちゃいました」


「やりたいこと?」


「はい。前に話したじゃないですか。美容師になりたいって」


「ああ、話してたね」


「前は、それに向かって頑張ろうって思えてたんです。でも最近、なんのためにこんなに頑張ってるんだろうって思うことが増えて……」


美月ちゃんは、膝の上で両手を組んだ。


「学校の課題もあるし、バイトもしなきゃいけないし、彼氏とも会いたいし。全部ちゃんとやろうとすると、時間が全然足りなくて」


「うん」


「寝る時間を削っても課題が終わらなかったりして……ずっと何かに追われてる感じなんです」


彼女は小さく息を吐いた。


「それで最近、学校を辞めたほうがいいのかなって考えるようになりました」


思いがけない言葉に、俺は少しだけ目を見開いた。


「辞めたいと思ってるの?」


「……わかんないです」


美月ちゃんは困ったように笑った。


「自分で選んだ学校だし、学費だって親に出してもらってるし。簡単に辞めちゃいけないって思うんです。でも、このまま続けるのもしんどくて」


「そっか」


「辞めたら楽になるのかなって思うこともあるんです。でも、本当にそれでいいのかなって……」


言葉を探すように、美月ちゃんは視線を落とした。


「自分でも、どうしたいのかわからないんです」


俺はすぐには答えられなかった。


頑張り続けることが正しいとは限らない。


だからといって、苦しいから辞めればいいと簡単に言える話でもない。


彼女がどんな気持ちで学校を選び、ここまで頑張ってきたのか。


それを知らない俺が、軽々しく答えを出していいはずがなかった。


「……そっか。結構、しんどかったんだね」


そう言うと、美月ちゃんは小さくうなずいた。


「はい……」


「話したいことがあるなら、話せばいいんじゃない?」


以前にも、似たようなことを言った気がする。


誰かに話したからといって、すぐに答えが見つかるわけじゃない。


それでも、一人で抱え込むよりは、少しだけ楽になることもある。


美月ちゃんは顔を上げた。


「……ありがとうございます」


「いや、別に。俺は聞いてただけだし」


「それでも、です」


彼女はほんの少しだけ、表情を和らげた。


それから、もう一度だけ「ありがとうございます」と言って、帰り支度を始めた。


俺はその背中を見送りながら、考えていた。


彼女が学校を辞めるべきなのか、続けるべきなのか。


そんなことを、俺が決めることはできない。


ただ、今の苦しさから逃れるためだけに決めて、あとで後悔するようなことにはなってほしくなかった。


どう伝えればいいのだろう。


答えを押しつけずに、彼女自身が納得できる選択をするためには。


俺はグラスに残った水を飲み干し、もう少し考えてみることにした。

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