夢と未来
「そういえば、美月ちゃんって学生なんだっけ?」
「そうですよー」
「大学はどう? 楽しい?」
「大学じゃなくて、専門です」
「あ、専門なんだ。何の専門?」
「美容師です」
「へえ、美容師か」
美月が何を学んでいるのか、俺はまだ知らなかった。
「じゃあ、将来は美容師になるんだ?」
「はい!」
美月は、少しだけ胸を張って答えた。
「何かきっかけがあったの?」
「髪をいじるのが好きだったのもあるし、自分でできるようになったら楽しそうだなって」
「なるほどね」
「実習は大変ですけど、前はできなかったことができるようになると、やっぱり嬉しいんですよ!」
そう話す美月の表情は、いつもより明るかった。
自分の好きなことを話しているからだろうか。
楽しそうに話す姿を見て、俺も自然と笑顔になった。
「じゃあ、結構頑張ってるんだ?」
「頑張ってますよー! でも、周りの子が上手すぎて……」
さっきまで明るかった声が、少しだけ小さくなった。
「周りと比べちゃう?」
「比べますよ。みんな上手なんですもん。自分が全然できてないように思えてきて……」
美月は少し困ったように笑った。
「……なれますかね?」
「ん?」
「私、本当に美容師になれるのかなって」
その声には、さっきまでの明るさがなかった。
「なりたいって思って、自分で学校まで選んだんでしょ?」
「はい」
「だったら、今すぐ自信がなくたっていいんじゃない? これから上手くなっていけばいいんだし」
美月は顔を上げ、俺を見た。
「……そうですかね?」
「そうだと思うよ。最初から何でもできる人なんて、そうそういないでしょ」
「蓮さんって、たまに先生みたいなこと言いますよね」
「たまにって何だよ。結構いいこと言ったつもりなんだけど」
「ふふっ。すみません、ありがとうございます」
美月は少し照れくさそうに笑った。
その笑顔を見て、少しでも気持ちが軽くなったのならよかったと思った。
美月の話を聞きながら、俺は昔の自分を思い出していた。
俺にも、目標に向かって必死に頑張っていた時期があった。
あの頃は、目指す場所があって、そこに近づくために毎日を過ごしていた。
それなのに、今はどうだろう。
毎日仕事をして、目の前のことをこなしていく。
ふとした瞬間に、考えてしまう。
――俺、何を目指して生きているんだろう。
誰かの悩みなら、少しは力になれる。
なのに、自分のことになると、何をどうすればいいのかさえ見えなくなる。
俺は小さく息を吐き、グラスに口をつけた。




