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クラブ・ジェムノット~エピソード2-少女の歌は花開く~  作者: (さ)くま
第1章 レーヴ、初仕事へ

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2-1-4 翁さん~初めてのお客様

「主よ、御許に近づかん―――」


囁くように、

祈りを……。


讃美歌が続くのは芸がないかもしれない。

でも、まだセットリストを整理できてない。


それに、

アメイジング・グレイスの余韻に負けない歌は、

そんなに多くないと思う。


この歌は、

タイタニック号が沈むとき、

乗船してた弦楽奏者たちが

まさに沈むっていうときまで演奏されていたらしい。


映画でも描写されていたなあ…

遼叔父さんの家で一緒に観たのが、

まるで昨日のことのように思い出せる。


あの、弦楽の3人が再び集まるシーンったら。

号泣してしまった私に、

叔父さん、バスタオル出してくれて…

笑っちゃったんだよね。



私の歌が、

優しい思い出を思い出す

きっかけになるといいな。



おじいちゃまは、どうだろう。



再び、星空が広がった。

美しい天の川がキラキラときらめいてる。


(天上への階段、出ないかなあ…)


さすがに無理かな。

そう思った時。


うっすらと…本当にうっすらとだけど、

階段は現れた。


(やった!)


「…これは……」


おじいちゃまの声が聞こえる。

感動してくれてるかな?

それとも、ご存じないかな。


どちらでもいい。

きっと、知っていても知らなくても、

とっても美しい。



神さま。

御許に近づくことをお許しください。


人も、鳥のように飛べたらいいのに。



ああ、歌が終わっちゃう。

もっと、もっと。



ああ、終わってしまった。


「ありがとうございました。

 今のは、映画やアニメでも使用されたことのある、

 有名な曲です。」


「ブラボー!!!!

 タイタニック、私も見た。

 妻が好きでな」


たったおひとりの拍手なのに。

たったおひとりの喝采なのに。


こんなに存在感のある方は、

なかなか見ない気がする。


お辞儀をする。



おじいちゃん――

翁さんが、手を挙げてくれた。


「ぜひリクエストしたい。

 いいかい?」


「はい。もちろんです」


助かった~!

次の曲、どうしようかハラハラしてたもん。


「百恵ちゃんを頼みたい」


あ、かわいらしい。

少しぽわんとしてしまった。


「はい。大丈夫です。

 曲の指定はありますか。」


「レーヴ嬢にまかせる」


期待に応えたいなあ。

では…


ウユニ塩湖は、日本から遠い。

旅行気分で聴いてもらえるかな。



――雪解け 間近の…―――




ふふふ。

この歌大好き。


私の低めの声も、よく合うと思うし。


「これこれ。流石だ」


翁さんの身体が、左右に少し動き出した。

リズムをとってくれてるみたい。

影が歌と同じ調子で動いていて、かわいい。


フルコーラスしちゃって大丈夫かな?

いいや、やっちゃえ。

とても気持ちいいから。


私の歌声が

のびやかに部屋中に響いて、

夜空がだんだんと、

明け方に近づいていく。


(…反響板のこと、伝えた方がいいのかな…)

いけないいけない、集中しないと。


歌詞自体は、

“良い歌”には遠い感じはするよね。

でもとってもいい歌だと思う。



(旅かあ…)

……いけない、集中、集中……。



でも、終わりは

考えておかないといけない。



時間的に、

あと2、3曲は歌っていいかな?

百恵ちゃんを歌ったなら、

もう一人、絶対歌わないといけない人が

いるよね。


あああ。また歌が終わっちゃう。

まって、まって。

あと少しだけ。


ああああ。



私は、

翁さんの様子を確かめるのを忘れて

次の曲をそのまま歌い始めてしまった。



――春色の汽車に乗って~…―――



「おおお!」


歓声!やった、成功!!


松田聖子さんです。

きっとご世代のアイドルですよね?翁さん?


朝焼けだったウユニは、

再び全快の蒼天へ。


ああ…、

このままずっと歌っていたいなあ。


翁さん、時計を見ないで。

赤いスイートピーの花弁が舞い散る。


「なんと…!素晴らしいな」


はい。

このブース本当に素晴らしいんです。


私にも、魔法が使えてますか?

どうですか、遼叔父さん。



ラスサビ。

もうすぐ歌が終わる。



これが終わったら、

少しお話させてみていただこうかな。


かわいく歌い終えるぞ!

私は聖子ちゃん、

私は、聖子ちゃん。


歌ってない時にこんなことを考えていたら、

多分恥ずかしくて逃げ出しちゃってるんじゃないかな。

でも、今だけは。


よし、最後もばっちり。


翁さんも知っている曲で終わりが分かっていたのか、

終わった瞬間、すごい拍手をいただいた。


「素晴らしい!!!」


お辞儀する。


「ありがとうございます。

 いい日旅立ち、赤いスイートピー、

 歌わせていただきました。」


「本当にいいものを見させてもらった!

 また来る。」


翁さん、帰っちゃうのか。

残念、

もう少し歌いたかったな…



「はい。

 またいつでもお越しください」



“また来る”って、言ってくれたもんね。


全然余韻が引かないまま、

私は翁さんの影を、静かにお見送りした。


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