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クラブ・ジェムノット~エピソード2-少女の歌は花開く~  作者: (さ)くま
第1章 レーヴ、初仕事へ

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2-1-3 リハーサルのはずが…

遼叔父さんが急いで戻ってきた。


「小杉、誰だ」


「翁じいさんっすね」


一瞬の沈黙。

遼叔父さん、何か考えてるみたい。


「…小杉、レーヴのブース、準備してくれ。」


「!了解す」


小杉さんが急いで何かし始める。


「レーヴ」


遼叔父さんが私を呼んだ。


「すまない、初仕事だ。

 10分稼ぐ、準備してほしい」


えっ。


「俺は表に出なきゃならん。

 小杉、レーヴ頼んだぞ」


「っす」


カタカタ、ターン。

小杉さんはキーボードを叩き終わらせて、

私を手招きする。


「レーヴちゃん、着替えましょう。控室どうぞ」


「そんな、私、まだセットリストも」


「こういう時の伏見さんは絶対外さないんで!大丈夫っす」


そんなこと言っても…!


有無を言わさず控室に放り込まれて、

ロッカーも案内されて、

その中には素敵なワンピースが入っていて。


「伏見さんやばすぎ」


小杉さんが笑う。


「更衣室こっちです。

 着替えたらさっきのブースいってください。

 ――椅子ならそのまま歌えます」


更衣室に押し込まれる。


「立って歌うなら、念のため、

 これ手首に巻いておいてください」


厚手のカーテン1枚向こうの小杉さんから、

カーテン越しに手渡された。


スピード感はさておき、

問答無用のこの感じは、斎宮家みたいだ。


―――働く、って、こういうことなのかな。


でも。

斎宮家と違うことがある。

私が、ワクワクしてるってこと。


白いシンプルなワンピースは、

私にあつらえたようにぴったりだった。

裾の広がり具合もとてもしっくりくる。


ウユニ塩湖の星空にも青空にも、

きっとすごく映える。素敵だ。


(遼叔父さん、ありがとう…)


ブースの―――

ジェム側の扉が開いた。


手元の端末にメッセージが届く。


『歌うだけで、大丈夫だ。俺を信じてくれ』


このメッセージは、

きっと遼叔父さん。


ブースに、

人の入る気配がする。


背筋はピンとしてる。

けど、ずいぶん小柄な影。


――翁じいさんっすね――


今入ってきた人は、

きっと、おじいちゃま。


まずは挨拶をするべきかもしれない。

でも、私は、

私のできることをもう知ってる。


歌おう―――。


ウェルカムソングはこれだ、

って、さっき決めたばかりだけど。


誰が作曲したかもわからない、

でも、誰もが知ってる讃美歌―――


アメイジング・グレイス。


誰もが知っている、

一瞬で引き込まれるメロディ。

私のアルトとも相性がいい。


私の大好きな曲。


おじいちゃま。

私の初めてのお客様になってくれて、

ありがとう―――


これからしばらく、

私と静かな時間を過ごしてほしい。


ブースに光があふれて、

星空がはじける。

見渡す限りの青空―――


両手を掲げる。

祈りを捧げる。


初めて神楽の舞台に上がった時のことは

もう、あまり覚えてない。

でも、あの時の“光”は、今も覚えてる。


あの光を、

私以外の人にも。



届いて――――。


どこまでも高らかに。

2番に差し掛かったころ、

雨粒が落ち始めた。


天気雨。

ああ、美しいな…


どこまでも幻想的な天空の塩湖。

降り注ぐ雨が、大地を、鏡を満たしていく。


気持ちいいなあ…



最後まで歌い終わった。

一呼吸おいて、お辞儀をした。


「はじめまして、

 ……レーヴです。」


もう一度お辞儀した。


……。


影に動きもないし、

何のリアクションもない。


…ど、ど、

どうしたらいいかな…?


私はソワソワしているのを、

動きに出さないように、心を空っぽにして

少しの間、待った。


………。

やっぱり、ノーリアクションだな…。



まあいいか、

次の曲歌おっかな…。


その時。

とても景気のいい拍手が始まった。



「気に入った!レーヴ嬢!」



ご老人特有のかすれた声。

しかし明朗な、ちゃきちゃきと、

少年のようでいて大人の男性らしい感じ。


ウキウキしているのが伝わってくる。


「私のことは翁(おきな)と呼んでくれ。

 よろしくな、レーヴ嬢」


よかった、

止められるまでひたすら歌おうかと思ってた…。

気に入っていただけたみたい。よかった。


胸の奥が、ぽわんとした。



「アメイジング・グレイスは、

 作曲者不明の讃美歌です。

 恵みや恐れ、救いが歌われています」


ゆっくり、深呼吸する。


「リクエストは、

 わかる範囲でお受付できます。

 話すのは……練習中です……。」


もう一度、深呼吸。



―――たくさん、色んな人と話してごらん。




はい。遼叔父さん。

たくさん歌って、たくさん話します。



私は、次の曲を歌い始めた。


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