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クラブ・ジェムノット~エピソード2-少女の歌は花開く~  作者: (さ)くま
第5章 進んでゆく

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2-5-3 ただし代償を伴う・1ターン休み

「…イヴ!…イヴ!!」


…遼叔父さんが、呼んでる…。


「遼叔父さん…?」


みんなが、私を覗きこんでいた。

…そうだ。私、さっき一瞬。


「…すみません。大丈夫、です。

 どのくらいだめになってましたか?」


小杉さんの方に顔を向けた。

すごく心配そうな顔で私を見てる。


「…一分も経ってない、とは思います」


救急車…


「救急車呼ぼうとしたとこで、

 目を覚ましたんだ。

 …病院、どうする?」


試験明けに、たぶん、“すごいはっちゃけ”た。

倒れて当然としか思えない。

めまいや頭痛はない。

他に悪いところもないと思うけど…


「一旦、帰ってゆっくり休みたいです。

 不安や違和感が残ったら病院に行ってみます。

 だめですか…?」


遼叔父さんの眉間に、深い皺が寄る。


「…吐き気とか痺れ、頭痛とか、

 少しでも何か違和感を感じたら、

 すぐに連絡してくること。

 それが約束できるなら」


…よかった。


「もちろんです」


ゆっくり立ち上がる。

あ、自分で歩けそう。吐き気とかもない。

大丈夫そう。ふう…。


「小杉、途中だっただろうけど」


「すみません、俺が一瞬でも考えてれば…」


小杉さんはなにも間違えてない。

私は、私が大暴走した自覚があった。


「“ハウスキーパーさん”

 やったんじゃないのか?レーヴ」


…はい。地獄1丁目でお掃除しました。


「…そっス」


遼叔父さんが、小杉さんの肩を軽く叩く。


「なら、お前も被害者だよ、小杉。

 …おつかれさん、怖かっただろ」


「…っス」


…気を、つけよう。

うんと気をつけよう。


遼叔父さんが、私の背中にそっと手を添えた。

支えるというより、歩幅を合わせてくれる感じ。

“ちょうどいい距離”で、胸にしみた。


小杉さんは、少し離れたところで

私の様子をずっと見ていた。

…すごく困ってそうな顔。


「小杉さん、ほんとに大丈夫です。

 私が勝手に暴走しただけで…」


言うと、小杉さんは

一瞬だけ目を伏せて、

それから小さくうなずいた。


「…レーヴちゃんがそう言うなら。

 でも、ほんと怖かったっすよ」


小杉さんの言葉が胸に刺さる。

…ああ、私、怖がらせてしまったんだ。

元気になったら、

なにか埋め合わせをしなくちゃ。


店の外に出ると、

夜風がひんやりしていて気持ちよかった。

身体の奥の熱が、少しずつ引いていく。


遼叔父さんが、

スマホでタクシーを呼んでくれた。

その間も、私の顔色を

さりげなく確認している。


「歩けるか?」


「はい。吐き気もないですし、

 頭も痛くないです」


「ならいい。

 でも、帰ったら水分しっかりとって、

 すぐ横になれ」


「はい」


タクシーが到着した。

運転手さんがドアを開けてくれる。


遼叔父さんは、

運転手さんに軽く頭を下げて言った。


「体調が少し悪いので、

 ゆっくり走ってやってください」


その言い方は、

過剰でもなく、冷たくもなく、

ただ事実を伝えるだけの優しさで。


私は後部座席に座った。

背中がシートに吸い込まれる。


ドアが閉まる直前、

遼叔父さんが言った。


「着いたら、必ず連絡しろ」


「もちろんです」


小杉さんは、

少し離れたところで手を振ってくれた。


「レーヴちゃん、ほんとにおつかれ。

 ゆっくり休んでください」


タクシーがゆっくり動き出す。

ジェムノットの灯りが遠ざかっていく。


(私の…帰る、場所……)


…疲れ切っていたんだろう。

一瞬で眠ってしまった。

次の瞬間は、もう、下宿の前だった。


『無事着きました。おやすみなさい』


送信。一瞬で返信が届いた。


『おやすみ、イヴ』


…ありがとう、遼叔父さん。

約束通りしっかりお水を飲んで、

すぐにぐっすり眠った。


目が覚めてスマホを見ると…

倒れた翌日の夕方だと表示してる。


ほとんど丸一日眠っていたみたい。

そんなに疲れてたなんて…。


メッセージも、何件も届いてる。


遼叔父さん、陽菜ちゃん、

シズクさん、大江さん…


…体調管理、本当に気を付けよう…。


陽菜ちゃんは試験終わった知らせ。

シズクさんと大江さんはグループでくれてる。

遼叔父さんは…


『起きたら電話くれ』


あれ……?

遼叔父さんと電話って…初めてじゃない?


まだ営業前だから、大丈夫かな。

電話を鳴らしてみる。


ーーもしもし。おはよう、体調どうだ?


遼叔父さんの声が耳元で聞こえて、

胸がキュッとなった。


「すごくスッキリしました。全快です」


ーーよかった。今日の出勤どうする?


とてもホッとした声。

私もホッとする。


「行きます。…すみません、

 オープンより少しだけ遅れるかも」


だって、丸2日乱れ放題状態なんです。

察してください……。


ーーわかるよ。

ちゃんと準備して、気をつけておいで


「はい。失礼します」


通話を終えて、

私は急いで準備を始めた。


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