2-5-2 SSRレーヴ
―――お宮さんですか。
その道に進むのは嫌ですか?―――
嫌では、ない。
だけど――
だけど、
私の、帰る場所は。
何も考えずに歩けるようになった道。
ほどなく、ジェムノットが見えてきた。
…私の、帰りたい場所は。
「お疲れさまです」
従業員出入り口から店に入る。
事務所には小杉さんがいた。
「レーヴちゃん!早いっすね」
「ついに学年末終わりました」
私は、小杉さんと約束をしていた。
学年末が終わったら…
「じゃあ!ブース調整しましょう!」
そう。あの、
誕生日に見せてもらった、
私の宝物たちを、
「はい!小杉さん、
よろしくお願いします」
丸一日かけて、“完全調整”してもらうって。
「大江さん、
どっか、1日ブース空いてますか」
予約表を確認してくれる大江さん。
「4番使ってくれ。
…俺も後で見に行ってもいいかな?」
「もちろんす!
奇跡に立ち会えますよ」
小杉さんハードル上げないでください…。
二人で4番ブースに向かう。
「AIにウユニのログ食わせたりしてるんで、
すでにレーヴちゃん仕様になってるとは
思いたいんスけどね」
ブースに入ると、
小杉さんは早速PC操作を始めた。
「やってみてほしいことが、
今までやってないことなんで。
本番でトラブるとあせるっしょ?」
オイトモ洞窟の、青く、
静謐とした情景が広がった。
「今までみたいに
天気!っていうような
わかりやすい演出でもないですし」
小杉さんはどんどんPC操作していく。
「この青いやつ…蛍でいいか。
蛍、自在に動くはずなんですけど。
なんかイメージ付きますか」
蛍…じゃないよね、きっと。
「たしか“グロウワーム”でしたよね?」
「そっす」
グロウワーム…ワーム…釣り餌?
それなら、釣り糸にかけて、
ヒュンヒュンさせるような感じなのかな?
糸…みゆきさんかな。
―――縦の糸は…―――
早速歌ってみる。
ああああああああ~。い、いやされるぅ!
これですこれ。歌ってこれです。
縦と横の糸で、
布を編むようなヴィジョンを思い浮かべる。
すると。
「おおおおおおお!!」
グロウワームが、縦に、横に、交差していく。
細い光のストールのようなものが現れて、
天井からふわりふわりと靡いた。
きれいだなあ~。ふむふむ。
ーーーラ…ララ……
頭の中のヴィジョンをそのままに、
Aの音だけで適当なメロディで歌い続ける。
光のストールは消えずにたなびき続けている。
私のイメージのヴィジョンのほうを
出力してくれるのかな?
…いったい、どういうことを
センシングしてるんだろう。
これはもう魔法だよね?
でも、それなら――――。
もっと、
もっと。
Aの音で、
好き勝手なメロディで、歌い続ける。
イメージは、“地獄に垂れる一筋の蜘蛛の糸”。
グロウワームの光のストールは
淡くほどけて、一筋の糸のように、
つつつと降りてくる。
「!?レーヴちゃん、な、なにを…」
私、さっきまで地獄1丁目にいたんです。
降りてきた光の糸は、
差し出した私の手の平のあたりで、
ぽわりぽわりと淡く瞬く。
うんうん、イメージ通り。
魔法だあ~。
「なんすか、なんすかこれ…」
水…川?も、何とかなるのかな?
それなら、“満たして”みたいな。
水の中は、きっと、
水中の生き物もいる。
見たいな。
私は声を張った。
その拍子に、水中に飛び込んだような
情景が溢れる。
グロウワームの光が遠くなる。
上からのかすかな光と、水の中、
水中の生き物たちが迎えてくれる。
「ちょ、ちょ、ちょ…!!」
小杉さんがパニックしてるかもしれない。
いっか。いいや。
思った通りにできてるし、
このままいっちゃえ。
泳ぐような動作で歌い続ける。
オペラもこれくらい“合って”れば、
とってもわかりやすいと思わない?
水流が早くなる。もっと、もっと。
次の場所へ。
水面へ浮上する。飛び出す。
つららが見えた。
「三十槌!?なんで!?」
ウユニは雪がなくてさみしかったんだよね。
あ、でも小杉さん何かしたよね?
クリスマスのあれ、絶対小杉さんだよね?
ここも空がないから、雪は無理かな?
でもそれなら。
風よ、吹いて。
ダイヤモンドダストが見たいの。
ずっと好き勝手なメロディのまま、
私はくるくる回った。
あたりがふぶいて、
キラキラしたものが舞い始めた。
「なんだこれ!?」
成功!きれい~!!
虹色のライトアップに照らされて、
ダイヤモンドダストが舞っている。
幻想的。本当に、幻の中にいるみたい。
ライトアップも動くかな?
きっと楽しい感じになるよね。
私はさらに動いた。
…ほんの少しは、
オペラの授業の成果が出ているはず。
賑やかしげな感じに
ライトアップが動く。
「俺…きっと歴史的瞬間にいる…
生きててよかった…」
小杉さんが何か
よくわからないことをつぶやいてる。
歴史的瞬間、かあ…
ここから無限城が建ったら、
歴史的瞬間かな?
ライトアップやダイヤモンドダストも
いい感じに相乗効果って感じで。
湯河原の宿が、ふと脳裏をよぎった。
そうだね、和は―――
私の根っこだもの―――
メロディを、神楽に変えた。
舞も神楽へ。
まず、私の足元が畳になった。
柱が、ふすまが、欄間が伸びていく。
作られていくところを、
ライトアップが追いかけていく。
階段が現れて―――
…ここ!
私は右足をたんっ!と踏み込む。
そのとき、
くるんくるんくるんっと
無限城が回った。
さっき私の足場だった場所は
天井にいって、
奥の方から迫ってきた別の部屋?が
次の足場になった。
「まじっすか!!!!」
ああ~、きもちいい。
ずっと歌える。
声がでなくなるまで、
身体が動かなくなるまで、
ずっと、ずっと。
―――お願い、止めないで。
そこで―――
私の意識は、一度途切れた。




