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クラブ・ジェムノット~エピソード2-少女の歌は花開く~  作者: (さ)くま
第4章 拡散

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2-4-5 サプライズ

東京に戻った翌日の朝、

私はまだ少しぼんやりした頭で

スマホを見つめていた。


遼叔父さんから届いた短いメッセージ──


『温泉の前に、少し昼を食べよう』


場所は、ジェムノットのエントランス集合。

それだけ。

…理由は、書かれていない。


お昼ご飯はわかる。

でも、ジェムノットの、エントランスに集合…?


胸の奥がそわそわして、落ち着かない。

遼叔父さんの手配はいつも完璧で、

だから今日のランチも、

きちんとなにかあるのだと思う。


…ただ……なんだか気になってしまう。


私は支度をしながら、

何度もメッセージを読み返してしまった。


「いけない!もう行かないと。」


店に向かう道は、冬の光が淡くて、

空気が少し乾いていた。


歩くたびに衣擦れの音がする。

それがやけに大きく聞こえる気がしてしまう。


本当に、なんだかソワソワしてしまってる。


店に着くとクリスマス飾りは

すっかり片づけられていて、

和紙の灯りがほのかに揺れる

落ち着いたエントランスに変わっていた。


(お正月仕様だあ…素敵)


クリスマスの雰囲気ももちろん素敵だったけど、

私は、和風の方が“私になじむ”感じがする。


穏やかな、冬の澄んだ空気に似合う静けさ。


その静けさの中で、私の心臓の音だけが

やけに大きく響いている気がした。


エントランスから、さらに

ホールへ一歩足を踏み入れた瞬間──


「レーヴちゃん、ハッピーバースデー!」

ぱんぱんぱん、とクラッカーの音が弾けた。


私は思わず肩を跳ねさせた。

クラッカーで視界が一瞬奪われて──

すぐに、ジュエルの皆さんと、

色とりどりの料理が目に飛び込んできた。


運び込まれたテーブル。

立食スタイルの華やかな空気。


みんなが笑顔で並び、グラスを掲げている。

その光景がまぶしくて、私は瞬きをした。


「誕生日おめでとう!乾杯!」


大江さんがグラスを渡してくれた。

声が重なり、店内が一気に明るくなる。


私はグラスを持ちながら、

胸の奥がじんわり温かくなるのを感じていた。


こんなふうに祝われるなんて

まったく思っていなかったから、

嬉しさと照れくささが混ざって、

呼吸が少しだけ浅くなる。


遼叔父さんが私のそばに立ち、

少し照れたように言った。


「みんなからだよ、レーヴ。」


その言葉と同時に、

巨大なプリザーブドフラワーの

オーナメントが運ばれてきた。


淡い桃色と白の花が重なり、

光を受けて柔らかく輝いている。


まるで冬の光を閉じ込めたみたいで、

私は息を呑んだ。

近づくと、花びらの影が細かく揺れていて、

その繊細さが胸に触れてくる。


「……すてき……!」


声が自然に漏れた。


「お店か、ブースに飾りたいです……」


誰かが声を上げる。


「ハタチだよね!

 お酒行っとこ行っとこ!」


私が反射的に「えっ」と声を漏らす前に、

遼叔父さんが即座に制した。


「ダメだ。ダメ。」


店内にブーイングが起きる。


「ええええええ〜〜〜!」


遼叔父さんは苦笑しながら言った。


「レーヴはこの後も移動なんだ。すまん。」


敏腕マネージャーさまは、

温泉のことは言わないみたい。


その“必要なことだけ言う”感じが、

遼叔父さんらしくて、

私は少しだけ笑ってしまった。


そこで小杉さんが手を挙げた。


「なら!

 ブース見てもらってください!ブース!」


遼叔父さんは少し考えてから頷いた。


「……そうだな。

 せっかくだから、

 みんなにもお披露目するか。」


みんな一斉に動き、

私は半ば連行されるようにブースエリアへ。


「俺と伏見さんの、渾身の作っスよ…」


小杉さんがPCを操作すると、

ブースの空気が変わりはじめた。


…胸の奥が、静かに

締めつけられるような感覚がしてきた。

ドキドキする。


最初に現れたのは──


「オイトモ洞窟だ。

 天井や壁面の発光体は、グロウワーム…

 ホタルみたいなものだ。つまり動く」


青い光がかすかに明滅しながら動く様子が、

足元の揺らめく水面にも反射している。

岩肌が静かに呼吸しているように見える。


(なにこれぇ…)


まるで言葉が出てこない。


ただ、光の揺れに

吸い込まれるように立ち尽くした。


「まだあるっスよ」


小杉さんがPC操作する。

すると、ホタルがどこかに

飛んで消えていくように暗くなって………


鍾乳石?ツララ?みたいなものが現れた。


「これは、三十槌のツララのライトアップだ。

 秩父で、今の時期にリアルに見れる」


冬の光を閉じ込めたような透明な柱が並んで、

冷たさと静けさが伝わるようだった。

その静けさが胸に触れて、私は思わず息を飲む。


「次がマジ力作です!」


カンカンカン…と音がしてきた。

柱のようなものがタテヨコに組みあがり、

欄間やふすま、たたみ、囲炉裏、階段…

無限に奥行き、果てしなく続いていく。


「無限城…」


音が鳴り止んだころ、誰かが言った。


「そうっス!レーヴちゃんなら、

 たぶん自在に動かせるはずっス!」


小杉さんの目がきらきらしている。


私はただ立ち尽くすしかなかった。

言葉が出ない。

胸の奥がじんわり熱くなる。


「全部使ってよレーヴちゃん!」


澄音さんが無邪気に叫ぶ。


遼叔父さんと小杉さんが同時に二度見した。


「……全部?」


遼叔父さん、小杉さん、私をおきざりにして、

満場一致で喝采があがった。


「歌って歌ってー!」


誰かが言い、誕生日の歌が始まった。


遼叔父さんと小杉さんも、

やけくそ気味に歌いはじめた。


その姿が可笑しくて、私は笑いながら、

胸の奥が温かくなるのを感じた。


私も歌った。


歌い終わると、大江さんからお開きの声がかかり、みんなで片付けが始まった。


「では明日から、また営業頑張りましょう!」


大江さんの明るい声が響いて、

店はいつもの静かな空気に戻っていく。


「大江さん、あと任せます」


大江さんから少し何かやりとりした後、

遼叔父さんが私に向き直る。


「行くぞ、レーヴ。」


その声はいつも通り静かで、

しかしどこか柔らかかった。


私は頷き、遼叔父さんと並んで店を出た。


冬の光が、私たちの影を長く伸ばしていた。


その影が寄り添うように見えて、

胸の奥がまた少し熱くなった。


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