2-4-3 行ってきます
厳かなクリスマスイブが明けて、
今日は12月25日、クリスマス当日。
今夜も、昨夜と同じ
クリスマス仕様のセトリで皆さまをお迎えする。
でも今日の衣装は、昨日のファーのケープは外す。
ジュエルの皆さんも、
昨日の衣装を少しずつ変えている。
今日も、シズクさんがメイクしてくれてる。
…落ち着いたら、教えてもらおう……。
「レーヴちゃん、アイメイクいくよ」
そう合図されて瞼を閉じると、
アイシャドウがのせられていく。
穏やかな足音が聞こえた。
「よかったら、これ」
やっぱり。遼叔父さんの声だ。
アイメイクしていない方の目を少しだけ開けると、
遼叔父さんが、繊細なレースのストールを
差し出してくれていた。
「伏見さん、またぁ〜?」
シズクさんが、笑いながら
ストールを受け取ってくれた。
「遼叔父さん、ありがとうございます…」
嬉しい。なにかお返ししたいな…!
シズクさんが口紅を引いてくれた。
昨日より少し濃いピンク。
「レーヴちゃんできたよ。
ストール羽織ってみて!」
メイクもストールも、すごく大人っぽい。
鏡に写った自分を、思わず写真に撮った。
「終わったらすぐバスに向かうからな、レーヴ」
遼叔父さんは、もう完全に
私のスケジュールが頭に入っていて、
まるで…
「遼ちゃん、
レーヴちゃんのマネージャーさんね」
宮子さんが愉快そうにそう言った。
私は、顔が熱くなる。
メイクで隠れてますように…!
「そうですよ。
…さ、歌姫さん出番です!」
遼叔父さんが私にウインクしてみせる。
…かっこいい。心臓壊れそう。
遼叔父さん、
控室からブースの扉までエスコートしてくれた。
…ちょっと待って。本当に心臓壊れちゃう………
その時、遼叔父さんがそっと耳打ちしてきた。
「本当に綺麗だ。見せつけておいで」
!
ぽわんぽわんしていた私の細胞全部が、
ぎゅんっと引き締まった気がした。
「はい!」
ーーー歌おう。
私の精一杯で、
遼叔父さんの“となり”を目指すんだ。
昨夜と同じように
『きよしこの夜』から歌い始める。
「レーヴ嬢!メリークリスマス」
翁さんの声だ。
来てくれたんだ。嬉しい。
歌いながら、声の聞こえた方に手を振る。
ウユニ塩湖の星空が、今夜も煌めいてる。
今日は、昨日より、艶やかに歌いたい。
レースのストールと、昨日より濃い口紅。
私を昨日より大人っぽくしてくれた
二人の気持ちに報いたい。
届いてほしい。
セトリの曲を続けて歌っていく。
ああ、時間が過ぎるのが早い。
「来年もまた来る。
レーヴ嬢、皆の衆も良い年末を」
翁さんが帰っちゃう。
残りの素敵なクリスマスを、
きっと奥様と過ごすんだ。
ほんの少しさみしい以上に、
すごく幸せな気持ちになった。
歌で翁さんを送り出す。
……ああ、本当に時間が過ぎるのが早い。
まだ、まだ終わらないで…。
でも、時間は来てしまう。
「…次で、今年最後の1曲です。
今年1年ありがとうございました。」
『スノーマジックファンタジー』。
ウユニ塩湖に、幻の雪が降り積もっていく。
ーーまた、来年もーー
ジェムノットで、
素晴らしい魔法に出会えますように。
素晴らしい魔法を届けられますように。
「ありがとうございました!
来年もお会いできるのを楽しみしています」
拍手と喝采の中、
お辞儀して退室する。
ブースのすぐそばに、
遼叔父さんが佇んでいた。
「最高だったよ、レーヴ」
「もしかして、見てくれてたんですか?」
遼叔父さんが、
少し照れ臭そうに鼻の頭を掻いた。
「…俺の、自分へのご褒美に、な。
さ、着替えてバスターミナルに行こう。
時間、そんなにないから」
私は急いで更衣室で着替えて、
事務所へ向かった。
「忘れ物ないか?」
遼叔父さんが上着を羽織る。
「私の宝石箱になったロッカーを
持っていきたい以外は大丈夫です」
あのドレスを、
ずっと肌身離さず持っていたい。
永遠に眺めてたい。
「なんだそりゃ。…行くぞ」
私たちは、店の外に出た。
「寒いしタクシーも考えたんだが、
電車の方が早い。行こう」
そう言いながら、
遼叔父さんは右腕をそっと差し出した。
えっ。まさか外でエスコート?
「人が多くて、危ないから。
今日は絶対に、無事にバスに乗せる」
顔に体温が集中して行くのがわかる。
…暗いからきっと大丈夫!
「……お願いします!」
遼叔父さんの右腕に、そっと左手を添える。
心臓が早鐘を打つって、きっとこれだ…。
店のすぐ外ではとても緊張したけど、
大通りに出ると、
エスコートが必要だったとすぐ理解できた。
色々楽しそうな人たちで、すごいことになってる。
添えていただけの左手に、力を込めた。
「…そうなんですよ。必要なんです」
そう言って、微笑む叔父さん。
……私の叔父さん、神ビジュだと思う……。
周りは本当にすごいことになってるのに、
遼叔父さんの周りだけ、静かで、穏やかで、
私の影も、とても穏やかにまどろんでいた。
ああ、この感じ。
上京してすぐの頃に、感じた。
懐かしいな…。
ずっと、いまが続けばいいのに。
電車に乗って、新宿へ。
改札もホームも電車もすごい。
ずっとすごい。語彙が死んでる。
でも、これはもう…
私には、すごいしか言いようがない。
それでも、遼叔父さんのそばだと、
影は少しも揺らがない。
バスターミナルに着いたので、
京都行きのバスへ向かう。
バスの近くまで来たので、
遼叔父さんがエスコートを終了した。
そっと離れていく右腕に、胸がキュッとする。
なぜだか、はにかむ叔父さん。
「これ、翁爺さんからレーヴへ。
クリスマスプレゼントだってさ」
叔父さんがずっと持っていた、
小さな紙袋を受け取る。
「…こっちは、俺から。
メリークリスマス、“イヴ”。」
胸ポケットから、
大事そうに取り出された、
やや大きめの手のひらサイズの包み。
クリスマスカラーのラッピングが施されていた。
嬉しすぎて言葉が出ない。
でもきっと、気持ちは伝わってるんだと思う。
遼叔父さんの表情が、
とっても、とっても、柔らかかったから。
「3日にそっちへ行く。
じいさんとばあさんに会いに行こう」
「…はい」
なんとか返事した。
…ああ、もう…
「…時間だな。」
背中を押される。
「…っ、行ってきます!
メリークリスマス!」
バスの指定座席に座ると、
程なくバスが動き出した。
スマホを取り出す。
『遼叔父さん、
プレゼント、ありがとう』
送信。
『中身見てないだろ。笑
着いたら一報くれ。何時でもいいから』
お返し、どうしたらいいんだろう。
“ひな鳥”は、精一杯頑張ってる。
……“となり”は……………。
…すごく、遠い。




